Bリーグ2021-22シーズンは宇都宮ブレックスの5年ぶり2回目の優勝で幕を閉じた。その直後からSNSにあふれた祝福の言葉。ブースターのみならず多くのバスケットファンから寄せられた「ブレックス、すごかった!」「文句なしの王者!」の声は優勝までの階段を6戦6勝で駆け上がった宇都宮の強さを示していたように思う。クォーターファイナルで昨季の覇者千葉ジェッツを倒し、セミファイナルで本命視されていた川崎ブレイブサンダースを退け、ファイナルで勝率トップの琉球ゴールデンキングスを振り切ったチーム力は頂点に立つにふさわしいものだった。
受け継がれたブレックスメンタリティ
あらためて今シーズンを振り返れば開幕前の下馬評で宇都宮を優勝候補の筆頭に挙げる者は少なかった気がする。チームリーダーとして心技の柱であったライアン・ロシター(現アルバルク東京)、ジェフ・ギブス(現長崎ヴェルカ)が揃ってチームを離れたことは大きな痛手だったに違いなく、開幕戦で群馬クレインサンダーズに喫した2連敗に不安を覚えたファンも多かったのではないか。しかし、それはあくまで周りの思惑。「僕はシーズンを通して苦しいと思ったことはない」と田臥勇太は言う。「チームのためにプレーできる選手が揃っていて、このチームは必ず成長し続けられると思っていました」
チームの基盤となるブレックスメンタリティは若手にもしっかり受け継がれ、2年目のジョシュ・スコットは新加入の外国籍選手たちに自分の経験を伝える役割を買って出た。ポイントガードとして大きく安定感が増した(すでに貫禄が漂う)鵤誠司は言うに及ばず、千葉との第1戦で流れを呼び込む3ポイントシュートを連続で沈めた荒谷裕秀、第2戦で14得点を稼ぎチームを波に乗せたテーブス海など日替わりでラッキーボーイが誕生したことも『シーズンを通じて成長し続けてきた宇都宮』の証だったかもしれない。そして、このプレーオフで最も強烈なインパクトを残したのは間違いなくエース比江島慎の “覚醒” だろう。
宇都宮が千葉とレギュラーシーズン最後に戦った試合は71-74で敗れた4月30日と72-69で勝利した5月1日。スタッツを見返すと第1戦で比江島は無得点に終わっている。ただし安齋竜三HCによると「それでもオフェンスの起点がマコ(比江島)であることに変わりはなく、彼が出ていた時間帯はプラス18だった」という。「だからこそ本人はシュートを決められなかった自分にもどかしさを感じていたんじゃないでしょうか」。
が、その “もどかしさ” が比江島のアタックモードボタンを押すことになる。翌日の第2戦で19得点をマークした比江島は安齋HCが良く知る『頼もしいエース』だった。
「千葉さんのホームで戦う厳しさを覚悟して臨んだ」(安齋HC)というチャンピオンシップの初戦、比江島は開始直後からフルスロットルで21得点、7アシスト、3スティールを記録し勝利の立役者となる。
「いつの間にか比江島が帰って来ていました」
試合後の記者会見で安齋HCが口にしたウィットに富んだひと言は、エースの覚醒を意味するものであり、それ以後、優勝までの道のりの中で「わかっていても止められない」比江島のスイッチがオフになることは一度もなかった。プレーオフ6試合平均18.7得点という数字だけではなく、欲しいときに決めてくれるエース、勝負どころで任せられるエースとして躍動し続けた比江島はだれもが認める大会MVPだったと言えるだろう。