「僕たちが連勝記録を作ったあと、島根と対戦したんですが、そこで負けて連勝記録が終わってしまいました。でも実際、あそこが僕の中ではターニングポイントだったかなと思いますね。オフェンスの部分で、みんながそれぞれ経験したバスケット人生の中でこれが良い、あれが良い、っていう感覚がある中で、島根戦で負けたことをきっかけにみんながすり合わせるようになったかなっていうのはあって。そこからオフェンスの完成度が一気に上がっていったかなというのは感じますね。自分が思う良いプレーと、ヘッドコーチが思う良いプレーと、みんなが思ってる良いプレーとが上手い具合に重なってきたように思います。」
いくら選手の判断を重視するチームであったとしても、判断の根拠が共有されなければ、それは個の集まり以上にはならない。
個性と自由が十分に尊重され、活気のある新しい思想と想像力に溢れた個人が共に結びつくことによって、より豊かな共同体が発生する。
そしてそういった文化は、形式的な作法から生まれてくることは稀だ。
「ミーティングみたいなかしこまった感じではないんですけど、コーチ陣とか選手同士でもラフにコミュニケーションをとっていく中で、そういうふうになっていったかなと思います。
みんなでミーティングするってなると、かしこまるじゃないですか。それよりかは個別で、必要なときに必要な人がちゃんとコミュニケーションを取れていると思うので、それが上手い具合に重なって。負けがいいきっかけになった、っていうパターンですかね。」
バスケットLIVEなどの映像で確認するのは難しいが、実は岸本は試合中もベンチでよく喋る。
同じく試合開始をコートサイドで迎えたメンバーと喋り、一人で喋り、怪我や体調不良で試合会場に来られなかったチームメイトに向けて、カメラ越しに喋ったりなどする。
陽気なやつだな、と思っていたがこれも必要なコミュニケーションとして意図している行動なのだろう。
「でも、けっこう中身のないこと言ってますよ(笑)『あれヘルプ行くの難しいよなー』とか。あんまりあれやろう、これやろう、とかじゃなくて、みんながやりやすい雰囲気を作りたいと思ってます。例えばディフェンスの約束事でちょっとエラーがあったときは、その当事者の選手に対して『いやー、実際あれはキツイっしょー』とか言ったり。自分も実際にそう思ってますし、自分でも『あれなかなか遂行すんのムズイよな』とか言って、できるだけ試合に入った状態でいて欲しいなと思って、ベンチではそういう話をしてますね。
僕もチームの中では年齢が上の方なので、気を遣われることも増えてきただろうなとは思って、なるべくそういうことをやれるように…まあでも、そんなに深く考えてないですけど。やりたいようにやらせてもらってます。」
人間は強要に対して反発するようにできている。
どれだけ正しい行いだったとしても、他人からやらされれば自己肯定感は下がり、活力も失われていく。
自分にとってやりたいことを選択する毎日は、大きな成長をもたらしてくれる。
時にはもちろん、選択を誤ることだってあるだろう。
だが失敗は学習経験から締め出すべきものではなく、さらなる成功のために喜んで迎え入れられるべきものなのだ。
自分のできる全てを投じられたならば、あとは「なんくるないさ」。
なりたかったチャンピオンになるため、やりたいことをやり続けていく。
琉球ゴールデンキングス #14 岸本隆一
前編:みんなと同じ場所で、違う方を向いて
中編:黒より白く、白より黒い、いずれかの明度
後編:すべての意思はチームに通ず
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE