中編:「黒より白く、白より黒い、いずれかの明度」より続く
「一つのことに囚われていると、それで試合が終わっちゃうなと感じています。」
チャンピオンシップを最後まで戦い抜き、栄冠を手にするためには、なにが肝要か。
チームとしての戦い方、コンセプト、目標設定がある中で、琉球ゴールデンキングスを構成する一つの要素である岸本が加える意志は。
「うまくいっているからといって、そこに固執しすぎずに。ネガティブになる要素もいろいろあると思うんですけど、調子が悪いとか、シュートタッチが悪いとか、レフェリーどうなんだろう、とかそれに囚われてたら試合が終わっちゃうと思うので、そこは一つのことに囚われないっていう部分は戦っていく上で大事なのかなと思いますね。」
うまくいっていても、いかなくなっても、現状を的確に把握し、次にどんなアクションを起こすべきなのかの模索をやめない。
一切のことについて自明視せず、別の形を探し続ける営みこそが成功を手繰り寄せる。
「こうすれば勝てる、っていうパターンは正直いっぱいあると思ってるんですよ。今年のチームは試合の戦い方に変化をつけることができる選手が本当に多いので、いい意味で勝ちパターンがないっていうのがチャンピオンシップでの強みかなって思いますね。
逆に、チャンピオンシップで負ける要素になり得るかなと思うのは、意思疎通がちゃんとできていないときですかね。試合に出てる選手が『正しいこと』をしようとするよりも、チームにとって『いいこと』ができればいいと思います。それぞれがこれが正しい、あれが正しい、っていう振る舞いになってしまうと、チームとしてそれはよくないかなと思います。意見を言うな、という意味ではなくて、ちゃんと意思統一して明確に、その都度その都度、5人が共通理解さえ持っていれば、大丈夫だと思ってます。どんなチームとも戦えると思いますし、あとはなるようにしかならないと思っています。」
人が最も残虐になる瞬間は悪の手に染まったときではなく、自分に正義があると確信したときだという。
本来であれば正しさは自分を律するためのものだが、誰かを攻撃する正義はカテゴリーを問わず、コートの中でも度々見受けられる。
だが岸本は自らの正義を闇雲に振りかざすのではなく、チームが勝つための力へと変換する。
そして続く言葉は沖縄で生まれ育った岸本が、この土地の文化を「正しく」表現するものだった。
「僕は最終的には『なんくるないさ』と思ってます。自分なりに納得した準備とか、アプローチをした上でそこに行き着くので、そういう気持ちでやっています。やることをやっていないのに『なんくるないさ』は全然良くないと思うんですけど、ある程度、自分のアプローチをした上で、そのときに望まない結果が出ても、もうしょうがないよね、と思っています。」
まだ沖縄で生活したことのなかった頃の僕も「なんくるないさ」という方言くらいは知っていたが、どちらかといえば楽観的、あるいはヤケクソなイメージだった。
しかし実際には、岸本が言うような意味が込められているのだった。
できうる限りの努力を尽くし、かつ結果に執着しすぎない姿勢は、人間が健全に生きていく上で望ましい。
また、勝利や成功に囚われすぎない向き合い方は精神的な平穏ももたらし、問題が起こったときの修正速度を早めてくれる。