前編:「みんなと同じ場所で、違う方を向いて」より続く
岸本隆一の謎。
どうしてそんなにドライブが速いのか。
なんでココナッツの木からシュートを打って入るのか。
彼のプレーを見ていると、次々に奇っ怪な現象が発生するので理解が追いつかないが、その中でもとりわけ筆者が目を疑うプレーがある。
どうやったら、そんなにビッグマンを守れるのか。
ピックアンドロールなどのスクリーンプレーを守る際、ディフェンスはできれば自分のマッチアップした選手についていきたいものだが、それが常にできるわけではない。
むしろオフェンスのレベルが高ければ高いほど、ディフェンスはスイッチと呼ばれる方法で、マークマンを交換せざるを得ないケースが増える。
同じ身長同士のスイッチであればさほど影響はないが、アウトサイドとビッグマンでのスイッチはそのままオフェンスに有利な状況をもたらす。
2mを越える大男に対し、180cmにも満たないガードがゴール下でいくら争ったところで結果は知れたものだ。
だが岸本のディフェンスは、そのような状況でも度々守り切ってしまうので、全くもって理解に苦しむ。
「いやー…けっこう必死ですね、単純に。ただほとんどのビッグマンが僕を相手にポストアップするとき、力で負けちゃいけない感、ていうんですか。向こうもそこまでフルパワーでやんなくていいだろう、って感覚があると思うので、最初は全力でぶつかってこないんですよ。なのでそこだけめちゃめちゃ力入れて、あとはけっこう流してます。だから相手がある程度、僕のことを舐めてくれてるのを逆手にとってるところはあります。僕がちょっと強めにバンって当たると、こんなちっちゃいやつに負けてらんねー、みたいな空気感で二回目ボーン!って当たってくることがあるので、そのときにチャージングをもらったりとか。できるだけ自分から当たるようにしてますかね、ポストアップのときは。でも守ってやろう!って思っちゃうと普通にファウルになっちゃうし、めちゃめちゃかわされて最悪なパターンになったりする。やっぱり難しいですね、ポストのディフェンスは。」
大抵のアウトサイドプレーヤーは、ミスマッチ時のポストディフェンスが難しい、とすら思わない。
体格差を考えればやられて当たり前、お願いだから誰か助けに来てくださいよ、的なスタンスになるのが普通で、チームとしてもスイッチした後はやられる前提の対策を練る。
岸本が仕掛ける駆け引きが毎回成功するわけではないが、一回、二回、とうまくいく度に相手プレーヤーはダメージを負っていく。
こんなちっちゃいやつ相手に一対一で攻められなかった…、という精神的なショックはその後の判断を狂わせる。
さらに岸本の長期的な影響を視野に入れた守りは、ビッグマン相手に限らない。
特に相手の中心的なプレーヤーをマッチアップするときは、通常よりもディフェンスの強度が大きく上昇するように見える。