一方で、コンディションの良さを実感していることも手伝ってか、野口は「僕もこのチームではルーキーだと思っています。若手の選手もライバル」と力強く語る。選手である以上はチームメートとも競い、コートの上でもチームの力になることが大前提。心身ともにそれができる状態であると同時に、チームをゼロから形作ろうという今の状況が野口にルーキーのような新鮮な気持ちを抱かせているということも言えそうだ。
とはいえ、38歳にしてプレーも意識も若々しさを保つことはそう簡単なことではないはずなのだが、野口には身近にこれ以上ない手本がいた。36歳で北海道に渡り、レラカムイからレバンガに至るまで野口と長くチームメートだった折茂武彦だ。
「改めて折茂さんって凄いと思いました。今の僕と変わらない年齢で北海道に行って、そこから10年以上プレーしたのは、さすが“妖怪”と呼ばれているだけあるなって(笑)。僕もその域に少しでも近づきたいですね」
そんな野口は、当然のように少しでも長くこのチームでプレーし、貢献したいという意欲にあふれる。そして、チームの成績のみならず、地域にクラブを根づかせるという点においても、野口は少なからず手応えを感じているようだ。
「まずはB3で優勝することはもちろんですが、B2に昇格しても僕たちのスタイルを貫きながら上位に食らいついて、B1昇格という目標を成し遂げたい。B1でプレーした1人として、その経験を生かしてチームをサポートしていきたいと思います。ファンの皆さんは応援してくれていますが、長崎に浸透するにはまだ足りない。それには強さの証明が必要だと思うんです。強さを証明しながら認知度を高めて、長崎の地からバスケットを盛り上げていけるようにと思います。BリーグになってからはTVなどで取り上げてもらうことも増えたと思いますが、北海道は野球やサッカーという根強いプロスポーツがあって、それまではバスケットはなかなか苦しかった。ヴェルカは1年目からTV番組も持たせてもらえていますし、浸透はだいぶ早いと思いますね」
様々な経験を経て長崎の地にたどり着いた結果、「パパ」と呼ばれながらも心身のフレッシュさを持ち合わせる新境地に達した野口。ある意味では、先に紹介した松本健児リオンや近藤崚太のように、長崎に来たことがバスケット人生の大きな節目にもなりそうだ。
文 吉川哲彦
写真提供 長崎ヴェルカ