Gravitational field of Fazekas(前編)より続く
川崎ブレイブサンダースのオフェンスが、ニック・ファジーカスを主体に据えてもう10年になる。
まだBリーグのチャンピオンにこそなれていないものの、NBLでチームを2回の優勝に導き、そして得点王やベスト5、MVPなど様々な個人賞も獲得してきた。
驚くべきは来日してからの9シーズンにおいて、1試合の平均得点が20点を下回ったシーズンがまだ1つもない。
それは彼の持つ特別なシュート力があってこそなのだが、もちろんそれだけではチームと個人に栄光をもたらし続けることはできない。
川崎のオフェンス、そしてファジーカス自身のプレーもより高い場所を目指して変化し続けている。
「以前は僕がローポストでボールを持ってオフェンスを組み立てる形が川崎のメインオフェンスだったと思いますが、それから徐々に僕とのピックアンドロールを多用した形へとシフトしてきています。僕としても昔とは違ってインサイドで強引にいける年齢ではなくなってきているので、ピックを使ってアドバンテージを作るやり方が、自分自身の成長とチームの成功の両方につながっていると感じています。」
そしてそのピックアンドロールの使い方も、常に環境に適応させながらより結果を出しやすい形を探ってきた。
「NBLの頃だったり、Bリーグになって間もない頃は、ピックをかけたらロールするケースが多かったと思います。ですが10年近く日本のリーグでプレーしてきて、相手チームも僕に対する守り方を工夫してきています。現段階ではピックの後にロールをしても、相手チームが僕のその動きに備えていて良いオフェンスにならないことが多いので、自分のためにスペースを作る最適な動きであるポップやショートロールを多用するようにしています。どういった状況であれ、ディフェンスが僕に与えてくれる機会を見極めて掴むことを考えています。」
ファジーカスのようにビッグマンがボールマンにスクリーンをかけた後、ゴールに向かっていく動きを一般的には「ロール」という。
反対にゴールから遠ざかり、3ポイントライン付近の開けたスペースに移動する動きを「ポップ」と呼ぶ。
このビッグマンの動き次第で、「ピックアンドロール」は「ピックアンドポップ」と呼ばれたりする。
そして相手チームがファジーカスのロールを徹底的に警戒する理由は、彼の「フローターシュート」にある。
「僕が若かった頃は、フローターを打つ機会なんてほとんどありませんでしたし、必要ともされていませんでした。ですがその一方で、子供の頃からフックシュートの練習はずっとやり続けていました。そのフックシュートがだんだん形を変えて、今のフローターにつながっていったのだと思います。14歳の頃から、『フックシュートを極めればバスケットでお金を稼ぐことのできる選手になれるよ』、とよく教えられていました。それから何千本もフックシュートを練習し続けて身につけていったシュートタッチが、今のフローターに大きな役割を果たしているのだと思います。」
この「フローター」は、その名の通りボールをフロートさせる、浮かすようにボールを投げるシュートのことだ。
片手でペロッと投げてしまうため、ディフェンスのタイミングを外すにはもってこいだが、コントロールが難しい。
だがファジーカスのそれは、ほぼ全部入る。
しかも大抵の場合はゴール近辺でしか使われないフローターだが、彼の場合ペイントエリア界隈だったらどこでも打てる。
だからこそディフェンスは、ファジーカスにロールをさせるわけにはいかない。
じゃあ外に追い出したら安心かと言えば、全くそんなことはない。
3ポイントもめっちゃ入る。
結果的に、ファジーカスにマッチアップする選手は彼の近くから離れられない。