「所属していた青森ワッツから移籍するかもしれないとは考えていたのですが、まさか川崎のようなB1の強豪チームから声をかけていただけるとは考えてもみませんでした」。綱井勇介は川崎ブレイブサンダースからオファーをもらったときの心境をそう振り返る。驚いたのと同時に頭をよぎったのは「試合に出られるんだろうか」という不安だったという。だが、その不安を隅に押しやったのは「自分はすごいチャンスをもらった。こんなチャンスは2度とない」という思いだ。「そう思ったら、うれしさがワァーッとこみ上げてきました」。
とは言うものの川崎には篠山竜青、藤井祐眞というリーグを代表するポイントガードがいるのは周知のとおり。新たなポイントガードとしてその一角に食い込み爪痕を残すのは容易なことではない。2021-22シーズン半ばが過ぎた2月末現在、綱井のスタッツに目をやれば、22試合出場、平均プレータイム4.37分、平均得点1.1。隅に押しやったはずの不安が再び頭をもたげることはないのだろうか。が、こちらの余計な心配をよそに「簡単に試合に出られないことは想定内ですから」と答える綱井の口調に暗さはない。それどころか「今は川崎に来て着実に成長できている手応えがあります。それを自分の自信にしていくことでさらなるステップアップを目指したいと思います」と続けた言葉には思いがけない力強さがあった。
どんな大変なことが続いても腐ることはない
大阪市出身。小学1年生でミニバスチームに入り、その日から「バスケ、おもしれぇ」と思った。「将来はプロ選手になりたい」という夢は大阪学院大学高校で全国の舞台を経験するころには「プロ選手になる」という目標に変わる。明治大学への進学を決めたのも将来を見据えてのことだ。きっかけは綱井の視野の広さとパスの精度に注目した塚本清彦コーチ(当時)がかけてくれた「うちでポイントガードを目指さないか」の言葉だった。レベルが高い関東の大学で揉まれることは間違いなく大きなプラスになるだろう。「行きます!」と即答した自分の声はきっと弾んでいたと思う。「そうですね。あのときはまさか自分を待ち受ける環境があんなに急変するとは思ってもいませんでしたから」