「ピックアンドロール」という単語に悩まされる。
この言葉が指す一連のプレーについて、一般的な認知度がどの程度なのかがまるでわからない。
不特定多数の人たちに向けて、特に意識せず書いたり喋ったりしたあとで、伝達の完了に不安を覚える専門用語ナンバーワン。
それがピックアンドロール。
もちろん他にも難解な専門用語、業界用語はいくらでもあるが、試合において発生する頻度および重要性に関してはこれが群を抜いており、かつシンプルな言葉で説明しづらい。
例えば「マンツーマンディフェンス」であれば「人を守り」、「ゾーンディフェンス」は「場所を守る」といったように、バスケットに馴染みの薄い人に対しても短い言葉で大まかなイメージを伝えられる。
だがピックアンドロールはどうか。
考えるのも面倒くさいのでウィキペディアに尋ねてみた。
以下抜粋。
「ボールを保持し留まっているプレーヤーをマークしているディフェンダーに対しスクリーンプレーヤーが近づきスクリーンをかけ(ピック)、ディフェンダーのマークを遅らせ、ボールハンドリングしているプレーヤーの移動の自由度を増すと共に、スクリーナーが方向転換し、ディフェンダーの進路を塞ぎ、自らのフリースペースへ動き(ロール)、パスを受ける。」
試合の解説で、ピックアンドロールが発生するたびにこれを言ってたら大したものである。
要するにボールを持っているプレーヤーに対してスクリーンをかけるプレーってことなのだが、そのバリエーションが豊かすぎて、簡潔な説明が難しいのだ。
最近のビッグマンはとてつもなく器用なので、ボールマンにスクリーンをかけた後でゴールに向かっていったりいかなかったりするし、なんならビッグマンがボールを持っているところに身長の低いガードがスクリーンをかけに行ったりもする。
恐らく、大昔にこの単語を発案した御仁は、2mを超える大男が悠々とボールを操り、軽々と3ポイントを決めまくる未来など想像もしていなかったのだろう。
これら全てを「ピックアンドロール」の言葉でまとめてしまうと、既に定着してしまっているそのイメージが邪魔してコミュニケーションに齟齬が生じやすいので、当然それぞれのプレーに対してネーミングがされていく。
だがその一つ一つを専門家が現場でしているように区別すると、今度は読者および視聴者の皆様の混乱を招くことになりかねない。
実に悩ましい。
自分の語彙力の低さが歯痒くて仕方がない。
今の僕にはピックアンドロールについてわかりやすく、全角140文字以内に収めて呟くなど到底不可能なので、ちょっと長めに説明させてください。
ピックアンドロールが行われている場面を見ていると、よく思い浮かんでくる景色がある。
正方形のリングに対峙し、睨み合う屈強な二人のレスラー。
リングサイドにはそれぞれの相棒が待ち構えるタッグマッチ。
突然、明らかに悪役ヅラした方の控えが、タッチを待たずしてリングサイドから飛び入り、相手の背中へドロップキックをお見舞いする。
掟破りの奇襲を受けたレスラーは倒れ込み、予想外のダメージに立ち上がることができない。
そのパートナーはあまりの理不尽に怒り、慌ててリングに突入するが、万全の状態で連なる悪役二人にボコボコにされる。
そんな感じ。
プロレスでは反則スレスレ(?)のダーティープレーだが、これがバスケットにおいてはガッチガチの合法である。
先のイメージはあくまでも概念的なものであって、もちろんドロップキックなど繰り出せば一発退場は免れないのでご注意されたし。
とにかく、それほどの威力を持ったプレーとしてピックアンドロールは現代バスケにおいて多用されている。