2年前に惜しまれつつ現役を引退した木下博之が今シーズン、サンロッカーズ渋谷のアシスタントコーチに就任した。大阪府出身。日本体育大学からパナソニックトライアンズに入団し、チームが休部となった2013シーズンからは和歌山トライアンズ→日立サンロッカーズ東京→大阪エヴェッサの主力ガードとして活躍してきた。負けん気の強さは天下一品、コート上で相手を飲み込む熱量に目を見張ったファンも少なくないだろう。現在は日体大の大学院で学びつつ、選手とともに汗を流す日々だ。自他ともに認める熱血選手が選んだ “コーチ” というセカンドキャリアの中にはどんな苦労や喜びがあるのか。「新たな気づきの連続です」と笑う木下にたっぷり語ってもらった。
選手時代の自分の “正しさ” が全ての選手に当てはまるわけではない
── 現役を引退された後、セカンドキャリアとして「コーチを目指す」というのは当初から考えられていたことなのですか?
はい。バスケットのコーチになるというのは子どものころからの夢というか目標でした。だけど、現役を退いたらすぐコーチになれるわけではないし、まずは一度自分をリセットして選手と向き合う時間を持ちたいと思いました。大学院に進んだのはそのためです。
── サンロッカーズ渋谷のアシスタントコーチに就任された経緯は?
大学院でコーチングを学びながら大阪エヴェッサのホームゲームの解説などもしていたのですが、あるとき大江田(孝幸)GMから「うちのアシスタントコーチをやってくれないか」というお話をもらいました。ご存知のように僕はサンロッカーズでプレーしていた時期がありますが、大江田さんは「そのときチームにいい働きかけをしてくれたことが今でも忘れられない。今度はアシスタントコーチとして力を貸してほしい」と言ってくださったんです。素直にうれしかったですね。他にも声をかけてくれたチームはあったんですが、最初に誘ってくれたサンロッカーズで頑張りたいと思いました。
── 現在はアシスタントコーチとしてどのようなお仕事をされているのですか?
ひと言でアシスタントコーチと言ってもチームによって仕事の内容は異なると思いますが、僕の場合はデータ分析、映像の分析から相手のスカウティングも行います。それともう一つ任されているのは若い選手の育成。今のチームだったら盛實海翔、西野曜、新しく入団が決まった井上宗一郎(筑波大4年)、特別指定選手の小川麻斗(日本体育大2年)などですね。デベロップチームを作って技術面の指導をしています。
── それはチーム練習とは別に?
はい。チーム練習が終わってからほぼ毎日行っています。
── 若い選手を指導する上で心がけていることはありますか?
彼らはこれまで大学の主力選手としてプレーしてきたわけで、試合に出られない経験というのはあまりないんですね。だから闇雲に頑張れ!というのではなく将来のビジョンを描きながら「こういうプレーができるようになればプレータイムが増えていくよ」といったことを一人ひとりと話しながら練習するようにしています。もちろん僕自身がプロとして経験したことも話しますが、キャリアがあるからこうしろ、ああしろということは言わない。それは一切したくないです。僕が心がけているのは彼らに必要だと感じることを伝え、本人たちが自発的に頑張ろうと思ってくれる環境を作ること。そのためにもしっかりとした信頼関係を築くことが重要だと思っています。