それでなくても海外のリーグから移籍してきたとあれば、使用しているボールの違いがシュートの感覚に及ぼす影響も無視できない。
僕は確信した。
外は入らない。
島根はドライブのみを警戒すればいい。
そう思っていた矢先の第4Q。
ダバンテ・ガードナーにボールが渡り、ディフェンスの意識がそちらに集中したところでフリーの選手を求めて回ってきたパスをローレンスが受けた。
3ポイントラインよりだいぶ離れた場所でショットクロックは残り数秒、ドライブする時間も残っていなかったが、ローレンスは迷わずこの日初めての3ポイントシュートを選択した。
かなり整ったシュートフォームから放たれたボールは、きれいにゴールへ吸い込まれていった。
いや、入るんかい。
あんだけドライブすごくて、ピック使えて、3ポイントまで入ったらもう立派にバケモンやないか。
これはアカン、もうどうしようもない。
試合時間残り3分での新情報には、どんな名将といえど策の施しようがない。
この時点において1つも弱点が見当たらなくなったローレンスは、Bリーグにおける鮮烈なデビューを飾るはずだった。
ペリン・ビュフォードさえいなければ。
ローレンスも凄かったがビュフォードはさらに凄かった。
得点こそわずかに及ばなかったものの、それ以外の分野での貢献がローレンスを上回った。
終盤でローレンスに3ポイントを決められた直後も自らのドライブでフリースローを獲得し、続く2分間で2本のスティールに1つのアシスト、そしてまた自身のミドルシュートと、支配的な活躍で一気に試合をひっくり返し、そのまま島根が勝利した。
卓越したオフェンス能力を持つビュフォードだが、その素晴らしさはなんといってもディフェンスにある。
あれ程の身体能力とスキルを持ちながらも前線からプレッシャーをかけ、ボール運びでのスティールを連発する外国籍選手はなかなか見当たらない。
高身長ながらアウトサイドのスキルを持つ2人は似たタイプのプレーヤーと言えるが、だからこそビュフォードのディフェンス力にローレンスのインパクトが薄められてしまったと言っても過言ではない。
もしマッチアップする相手がビュフォードでなければ、情報格差の効果も相まってより衝撃的なパフォーマンスのデビュー戦になっていたかもしれない。
故障者が出たためのロスター入りとあって、そのタイミングをコントロールできなかったのも無理はないが、ローレンスにとっては少し不運なリーグの開幕となった。
ここ数年で、ビュフォードのようなプレイヤーの存在価値が更に重要視されてきているように思う。
琉球のドウェイン・エバンスやアレン・ダーラム、名古屋のコティ・クラークなど、2m前後の長身でもガード並のスキルと機動力に優れ、かつディフェンス力の高いプレイヤーの試合に与える影響がとてつもなく大きい。
これほど質の高いプレイヤーが日本のリーグにゴロゴロいる状況はこれまでになく、実に見応えのある試合が多くなった。
2月6日の島根対三河戦、2Q残り4分40秒付近のプレーなどは実に顕著で、ファウルにこそなってしまったものの、このスケールの攻防が見られるのが今のBリーグである。
三河のローレンスもおそらくはこのカテゴリーに参戦する選手であると思われるが、これからはデビュー戦のプレーを徹底的に研究された上での戦いとなり、情報格差による優位性はどんどん失われていく。
既知の存在となったアンノウンは相手チームの対策に潰されるのか、はたまたそれを上回るパフォーマンスで三河が再浮上するきっかけとなるのか。
リーグ戦はまだ、半分もある。
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE