「富樫の一番すごいのは止まれるところ」
先日、勉強のために同行させてもらった取材で、千葉ジェッツの多田S&Cコーチはこう話していた。(千葉ジェッツ多田S&Cコーチのインタビューは後日掲載予定)
それを聞いた僕は、頬をはたかれたような思いがした。
ただ速く動ければいいってもんじゃない。
むしろより速く動くためには、止まらなければならない。
思い返せば止まれない人生を送ってきた。
中学生の時分などは自転車を勢いよく漕ぎすぎて田んぼに突っ込んだ。
大学の授業に遅刻するまいと急いで原付を走らせ、待ち構えていた警官に一時停止の違反切符を切られたこともある。
ピンフドラ1くらいで突っ込んだってどうしようもない局面なのに止まれず、満貫を振り込む失態もしばしばだ。
多田S&Cコーチは恐らく、そのような止まり方について関与しようなどとは微塵も思っていないだろうが。
「今日も富樫くんはお止まりになっていらっしゃるのかしら」
9月18日、富山対千葉戦に目を止める。
「止まれる」というのはつまり、現在進行形で発生しているスピードをゼロにし、別の方向へのエネルギーを生み出す作業を指す。
この一連の流れが速ければ速いほど、そしてスピードのギャップが大きいほど、相手に対して優位性を得られる。
富樫勇樹が「止まれる」動きの中で、最も特徴的でわかりやすいのがドリブルからのジャンプシュートかもしれない。
ドリブルで移動しながら最小限の予備動作で止まり、真っ直ぐに跳び上がってシュートを放つ。
彼の移動経路を線で結んでみた場合、ドリブルとシュートのラインが直角に近くなることが多いだろう。
皆さんももし機会があるならば、彼の足元に教員用のデカイ三角定規を置いて確かめてみて欲しい。
作り出したスピードを抑えきれずに、体が流れたままシュートを打ってしまうケースがいかに少ないかがわかるはずだ。
もちろん、体勢を崩さずにシュートを打つだけのことならば誰にでもできる。
歩いてドリブルして、ゆっくりシュートを打てば、ほぼ全ての人間が身体をコントロールするだろう。
確率の高い、真っ直ぐにリングを目指すシュートが打てるはずだ。
しかし言わずもがなではあるが、それを許してくれる寛大なディフェンスは世界広しといえどなかなか存在するものではない。
楽することを許さぬ心の狭いディフェンスから得点するためには、相手を上回るスピードで動かなければならない。
そのために加速し、止まり、また別の方向に加速する。
この作業をどこまでトップスピードに近い速度まで上げられるかが、「止まれる」かどうかなのである。