認知の質と量を高める作業
ビデオアナリスト(またはビデオコーディネーターやスカウティングコーチなど)と呼ばれるスタッフが、Bリーグの中でも急速に増えはじめた。2021-22シーズンへ向けたB1の22チーム中、12チームにその名が連ねられている。映像やスタッツなどのデータを分析し、来るべき新シーズンや次の試合に向けてチームの強みと相手の弱点をスカウティングするのが主な仕事だが、チームによってその役割は異なる。
「選手やチームスタッフの認知の質と量を高めることが一番の目的」と言うのは、昨シーズン悲願のBリーグチャンピオンに輝いた千葉ジェッツのビデオアナリスト、木村和希氏である。「認知の質と量を高める」作業について、用意していただいた資料をもとに説明してくれた。
「認知を高めるためのツールが、数値や映像だと自分の中では定義しています。それだけではなく、三角形の中にある全てがデータであり、目的を達成するためのツールになります。運動感覚はキネステーゼと言われますが、選手たちはその感覚で物事を語ります。まずは図や映像に落とし込み、しっかり言語化して、データとして収集することが重要です。それにより、はじめて数値化することができます。その数値を使いながら、勝利に向かった構造式や方程式ができあがる。これがデータの構造です」
そもそも選手の運動感覚に対する情報はとても少ないそうだ。それを具現化するためにも図や映像が必要であり、「そもそも言語化ができなければ、数値化もできません」と木村氏は強調する。図にある矢印のとおり、選手たちは運動感覚からスタートし、それらが図式化、言語化できるようになったものが数値となって現れていく。逆に、コーチは目指すべき数値をもとにしっかり言葉で伝え、映像で理解させ、選手たちの運動感覚に訴えかける。これが認知水準フレームワークであり、チームの成功にはこの全てが欠かせない。その頂点にある構造式や方程式を導き出すのが、ビデオアナリストの仕事である。
「得られた数値から分析して、それを達成できるかどうかでチームの勝敗に影響すると言えます。しかし、それだけでは選手の運動感覚にアプローチすることも難しいです。数値化したものをしっかり言語化して伝え、分かりやすく映像で見せながらアプローチするのが我々の仕事です」
バラバラのデータに悩みながらもたどり着いた優勝への方程式
新シーズンへと向かう今、チームのフレームワーク作りにビデオアナリストは忙しい日々を送っている。このベースがあるからこそ、シーズンがはじまれば毎試合のスカウティングもスムーズに遂行できる。しかし昨シーズンは、そのルーティンをはみ出すチャレンジをしたことで、これまでとは異なる大きな結果を得られた。木村氏にとっても「手応えはメッチャありました」という特別なシーズンでもあった。
千葉は2017年から天皇杯で3連覇を果たし、Bリーグでも2017-18から2シーズン連続で東地区チャンピオンと好成績を収める。しかし、その後のファイナルではいずれもアルバルク東京に敗れ、2位に終わった。「現状のままでは同じ結果になってしまう」とスタッフ陣が危機感を持ち、テコ入れして臨んだのが昨シーズンである。
「長いレギュラーシーズン中はいろんなことにトライし、それがチームに浸透していきました。トライすることによっていろんなエラーが生じ、それによって結果が伴わなかった試合もかなりありました。でも、そこで得たエラーを一つひとつ改善していったことが、最後の優勝につながったと感じています」