その条件とはまず第一に、自分のマークマンがアウトサイドからシュートを打つこと。
それに対してマイケル・パーカーは必ずといっていいほどコンテスト(シュートの妨害のために飛び上がる)する。
トップから、つまりバックボードに正対した位置からのシュート以外は、外れたボールがシューターのいる場所へ戻ってくる確率は低いとされている。
さらにシュートを打った本人がリバウンドに飛び込むケースも、多くみられる現象ではない。
そして、そのコンテストが相手ゴール方向に向かっていることが第二の条件。
シュートに対して影響を与えつつ、走り出すための勢いとすることができるためだ。
だがもし二つの条件が整ったとしても、考えなしに全力疾走したりはしない。
放たれたシュートの行方を確認しながらスピードを抑えて走り、イレギュラーな事態に備えていつでも戻れる距離を保っている。
無事に味方がリバウンドを取ったことを確認してから速度を上げてゴールへ向かうが、その時点から気づいて追いつけるディフェンスはいない。
以上のことからわかるように、彼は決してディフェンスをしないわけでも責任を放棄しているわけでもなく、ランダムな状況から生まれた予測不能なチャンスの種を、大きく実らせる試みをしているのだ。
今年で40歳になる大ベテランだからとにかく省エネってことなのね、それにしたってズルイや!と憤るのは早計である。
そればかりか、チートと呼ばれ忌み嫌われているものを、合理的な判断のもとに技術として成立させている可能性が窺える。
そもそもこの人、(12月で)40歳のくせに運動量がめちゃくちゃ多いし、イチイチやることが細かい。
一例としては、ピックアンドロールプレーのためにスクリーンをかけた後、パスコースに入るのが変態的に上手い。
一般的には、高身長でインサイドのプレイに自信があったり、アウトサイドシュートが得意でバンバン打ちたかったりと、自分の長所が活かせるポジションへと移動するビッグマンが多い。
とにかく自分が行きたいところを目がけて動きがちなのだが、ディフェンスも簡単にやられたくはないので、効果的なパスはなるべくさせないように守る。
だがマイケル・パーカーは常にボールを持った味方と自分の間がディフェンスに遮られないための微調整を、秒単位で行っている(ように見える)。
これはパスを出す側からすると相当な恩恵であり、ボールマンから見たマイケル・パーカーに後光がさしているように見えていてもおかしくない。
そして、理想的なポジションを確保した彼のペイントエリア付近から放たれるシュートは、常に高い確率でリングを通過する。
僕には彼が、3ポイントシュートの精度が飛び抜けて高いとか、インサイドで他を圧倒するフィジカルを持っているとは思えない。
しかし常識に固定化されることなく、自分の特性を理解し環境に適応させる努力こそが彼を長きにわたって高いレベルに留まらせているのは間違いないだろう。
とはいえ、40歳であんなに動けるのはそれだけでチートだとは思う。
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE(写真は2020-21シーズン)