「先走りはするな」
「まずはボックスアウト」
ディフェンスを完結させる上で極めて重要な要素の一つがリバウンド。
リバウンドに参加することなく相手ゴールへと走り出すことは『チート』とも呼ばれ、それをする選手は責任を放棄したと捉えられがちである。
しかしマイケル・パーカーは、この『ズル』を『技術』へと昇華させてしまったのではないだろうか。
9月11日に行われた名古屋D対群馬のプレシーズンゲーム。
大胆な補強と新HCを迎えた名古屋に大きな期待と注目が集まったが、まず「先走り」したのは群馬。
群馬というかマイケル・パーカー。
試合開始直後からディフェンスを早めに切り上げて走り出した彼のもとに、繰り返しロングパスが届けられた。
最終的には名古屋Dが試合を制し、見所も多い試合だった。
群馬もトレイ・ジョーンズ、ジャスティン・キーナンの得点力など注目すべき点は多岐に渡るが、試合後の率直な所感としては「マイケル・パーカーすげー」だった。
ディフェンスせずに先走り。
ロングパスを受けてレイアップ。
一見すると地域のクラブチームとかでビールっ腹のシニアがやりがちな作戦である。
そしてこれに悩まされた高校生バスケットボーラーは結構多いことと思う。
かく言う筆者もこの悪名高い戦術に苦労させられた一人だった。
近隣に同等レベルの学校が存在しないため、大人のクラブチームとの練習試合がよく組まれた高校時代だったのだが、大抵の場合、体力的不安から大人は先走る。
なんなら終始、居残っていたりもする。
相手は大人で、体も大きくて強いので、こちらのシュートが外れた暁にはリバウンドをもぎ取られ、力任せにコートの反対側にぶん投げられて「おしまい」である。
真面目にチームのルールを守っていたらそんなものを守り切るのは不可能であり、それでも負けたら怒られるのであり、社会というのはこんなにも理不尽なものなのか、と生きていく厳しさを痛感させられた。
本来ならこういった手法は地域のアマチュアレベルでしか通用しないものであるが、しかしここはBリーグ、しかも最高峰のB1である。
この試合でマイケル・パーカーが披露した先走りは7回。(石崎調べ)
うち5回を成功させ、8得点1アシストをスコアシートに加えた。
驚異の成功率71%。
バケモンである。
もちろん失敗もあった。
走り出したことでフリーになった自分のマークマンにオフェンスリバウンドを取られ、得点につなげられてしまった。
だが彼の守り方を注視してみると、先走る条件を厳密に定め、そのリスクを最小限に抑えるとともに成功率を最大限高めていると思しき兆候があった。