2つの軸足を巧みに使い分けて
横浜ビー・コルセアーズのGM(ゼネラルマネージャー)に就任した竹田謙の話を聞いていて、思いついたことがある。GMには “ピボット” を的確に使いこなす能力が求められるのではないか。状況に応じて適宜フロントとチーム(現場)を軸足にし、クラブをスムーズに運営していく“ピボット”。簡単に軸足が動くようではいけない。
チーム編成についてはヘッドコーチの青木勇人や、アシスタントコーチも兼任するアシスタントGMの山田謙治らとともに話し合いながら進めている。しかしGMとしては、フロントとしての軸足に変えなければいけないときもある。
「2人が見えていないフロントの考えだったり、クラブ以外のところ、ファンやスポンサー、地域のことなども考えて答えを出していかなければいけないところもあります。 ただそこでハッキリとした役割分担をするのではなく、『グラデーション』なのかなと。(青木)勇人さんにもクラブのことは考えてもらっていますけど、どちらといえばチーム寄りのことを考えてもらって、ボクも当然チームのことを考えながら、一方でクラブや外部のことも考えて答えを出すようにしています」
そうしたことができるのも、一度目の引退後の経験が大きかった。デンソー・アイリスでアシスタントコーチを務める前年、つまりリンク栃木ブレックス(現・宇都宮ブレックス)で引退した直後のシーズンで、竹田は「アンバサダー兼アシスタントGM」を務めている。そのときアリーナの入り口に立っているだけで、「これだけのお客さんが見に来てくれているんだ」と実感することができた。しかもその多くが自分のことを知っている。当然と言えば当然だろう。前年まで応援していた元選手が、スーツ姿とはいえ、アリーナの入り口に立っていれば誰だって気づくはずだ。
「『まぁ、そうだよな』なんて思いながら、でもやはりコートにいて、ベンチに座って、試合に出ていると、それってあまり感じられないことでもあるんです」
アリーナの裏口から入り、ロッカールームで着替えて、コートへと向かう。コートでは一体となったファンからの声援を浴びることはできるが、彼ら一人ひとりが内包する喜びや思いまでを、その表情に触れながら感じることはできない。
しかし竹田は、栃木で観客と同じ目の高さの経験をしていたからこそ、横浜のGMとしての再出航もスムーズな進水になっている。
GMとしての最初のシーズン、竹田は選手たちに「全チームに勝とう」と言っている。今シーズンのB1は全22チームでおこなわれる。レギュラーシーズンでは名古屋Dとの対戦はないものの、全チームに1つずつ勝てば20勝。少なくとも過去5シーズンで最も多い勝利数になる。そのうえでさらに「強豪」と呼ばれるチームを「食ってやろう」というマインドで臨んでほしいとも伝えている。
チームだけではない。選手個々にも自らの限界を作らず、貪欲に個人の結果を求めている。
「役職が人を作るといった話がありますが、若い選手にもどんどん役割を与えて、当事者意識を持たせることが大切だと思っています。『俺がやらないとこのチームは勝てない』という気持ちを個々が持ってやってもらえるようなチームになってほしいし、選手一人ひとりもそういうマインドを持ってほしいなと思っています」
そうしたマインドセットをヘッドコーチら現場のリーダーだけでなく、フロントにも軸足を置けるGMが同じく伝えることで、クラブ全体が同じ方向を向いているとわかる。選手たちの迷いもなくなる。
「今のボクができることって、なるべく選手の近くで、選手の感覚に近い状態で話をしてあげることだと思っています。そうすることで選手が自信を持ってコートに立てるようにサポートできればいいなと思っています」