潜在的に磨かれていったリバウンドへの意識
自分でも気づかない才能に気づかされることがある。サンロッカーズ渋谷の渡辺竜之佑にとって、リバウンドはまさにそれだった。
たとえば今回のリバウンド特集で取材を受けてくれた秋田ノーザンハピネッツの中山拓哉はこう評している。
「たとえば他のチームの日本人選手の中でリバウンドが強いなあと思うのは(サンロッカーズ)渋谷の渡辺竜之佑なんですけど、あいつはいつも積極的にリバウンドに絡んでいきますよね。取ってやる!という気持ちが伝わってきます。特別身長が高いわけでもない(189cm)し、プレータイムがそれほど長いわけではないけど、見ていると(リバウンドの)貢献度が高いのを感じます」
チームメイトのベンドラメ礼生も渡辺の魅力について「なんといってもリバウンドが強い!」と絶賛している。噂レベルだが、伊佐勉ヘッドコーチも渡辺のリバウンドを買って、獲得に動いたと言われている。
ビッグマンではない。むしろ一般的にはリバウンド争いに縁遠いと思われがちなガードでありながら、リバウンドでインパクトを与える渡辺。しかし当の本人はそこに自分の魅力を見出していない。スタッツを見ても突出しているわけでもないし、感覚としても取れているとは思えていない。実感がないのである。強いて言えば、リバウンドに対する意識は潜在的にあるようだ。
「意識しているのは “行く” ってこと。とりあえずリバウンドに行くところから入っているんです。それでも取れないときはあるけど、とりあえず数撃ちゃ当たるというか、行っておけば取れるだろうという感じでずっと行っています」
数打ちゃ当たる。言葉尻だけを捉えると、どうにも当てずっぽう、適当な感じもしなくはない。しかし、それこそが最も難しいことなのかもしれない。リバウンドは、言わずもがな、ゲームの勝敗を左右する大きな要素である。行けと言われても行けない選手は多い。行こうと思うのに、つい忘れてしまう選手もいる。ハッと気づいたときにはもう遅い。それがごく一般的なリバウンドではないだろうか。
渡辺はとにかく行く。行けば取れるかもしれない。取れないかもしれないけど、行かなければ絶対に取れない。そのわずかだが、勝敗に大きく関わる差を渡辺は感覚的に埋められる選手なのである。
となれば、当然、その原点を知りたい。何かきっかけがあるはずだ。誰かに教わったのか。マンガや書籍などを読んで気づいたのか。
「いや、そういうのはまったくないですね」
一笑に付された。が、引き下がるわけにはいかない。食らいつく。すると、渡辺の思考回路がゆっくりと動き出す。
「リバウンドが強いと言われるようになったのは、高校、大学あたりからです。そのころは自分が中心になって攻めていて、ボクが1対1で突っ込んで、シュートを外して、取って、それでまた決めるということが多かったんです」
『スラムダンク』でおなじみの「自ら打って、自ら取る」である。しかし彼のいた福岡第一高校や専修大学には留学生がいた。リバウンドは高さで勝る彼らの役割と言っていい。
「留学生に負けじと取っていました(笑)。たまにボクのほうが取っていることもありましたよ。そうした身長の高い選手たちと一緒に練習していたことも関係しているのかな」
福岡第一高校は部員数も多く、何事にも必死にならなければロスターには残れない。日本人選手はもちろんのこと、留学生であろうが、彼らを上回ることがプレータイムに直結する。そうした競争心がいつの間にか渡辺のリバウンドに対するマインドセットを高めていったのだろう。