スラムダンクをもう一度(中編)より続く
レバンガ北海道の桜井良太は2017-18シーズンの最終戦で左足首を骨折し、オフに手術を受けている。次のシーズンも完治しきらずにプレーしたため、2年連続での手術を敢行している。さらには「骨折をした前年にもケガで手術をしているので、実は3年連続でオフシーズンに手術をしているんです」と明かす。
満身創痍の桜井だったが、それでもコートに立ち続けたのは、良くも悪くも「連続試合出場」という記録が更新されていたからだ。2006年2月12日、トヨタ自動車時代から始まった記録は、2020年1月29日の秋田ノーザンハピネッツ戦まで「636試合」も続く。しかし、それがよけいに彼の体を蝕んでいた。
「自分としてはコンディションが悪くて、プレーも満足いくものが出せないのであれば、試合に出ないほうがいいと思っていたんです。でもファンの方も期待してくださっていたし、応援してくださっていて、いつしか自分自身もその記録にとらわれて出続けていたところがありました」
その結果、「走るって、どうやって走るんだっけ?」と考えなければならないほどになってしまった。まともに走れず、飛べなくなってしまったのである。スラリとした桜井の体がコートを駆け抜け、宙に浮きあがるやダンクシュートをぶち込む。桜井の代名詞ともいえるプレーが完全に失われていたのである。
それでも桜井はすぐに引退を決意しなかった。もう一度、体がしっかり動く状態に戻して、それでもプレーがうまくいかなくなったと思えば、そのときは引退を決意したい。今はまだその時期ではない。そう考えたのである。
「納得して引退したいんです」
ベテランだからこそ考える引き際の美学。桜井はそれを「納得」という言葉で表した。
その「納得」がいつ得られるのかはまだわからない。ただその瞬間まで、桜井はレバンガ北海道に強いチームとしての文化を根付かせたいと考えている。チームの立ち上げから在籍し続けている桜井ならではの切なる思いだろう。
もちろんチームの文化は一選手が考えてできあがるものではない。折茂をはじめとするフロントがいて、ヘッドコーチを筆頭にしたチームがいて、その両輪がうまく回ることで醸成されていく。そこに選手の思いや、経験も加われば、よりよい文化が築かれる。
そういう意味でも2019-2020シーズンに琉球ゴールデンキングスから移籍してきた橋本竜馬の存在は大きい。桜井もまた盲目的になりがちだった思いを、シーホース三河を含めて、強豪チームの文化を見てきた橋本から指摘され、改めている最中だと言う。