身体能力が低いわけではない。むしろ高いほうに加えてもおかしくないところにある。その証拠に2014年のウインターカップ決勝戦、福岡大学附属大濠の2年生だった牧隼利はダンクシュートを狙いにいっている。第4Q残り49秒。69-69の同点の場面で、である。結果として明成(現・仙台大学附属明成)の八村塁(ワシントン・ウィザーズ)にブロックされてしまうのだが、牧を語る上で欠かせないエピソードの1つである。
その後、筑波大学に進学し、4年生になってキャプテンになった牧は最後のインカレを制した。そこに至るまでにはたくさんの苦悩があったと、多くの記事で読み返すことができる。自らの性格をネガティブに捉え、苦悩し、それを乗り越えての優勝だったと。
そして今、牧は琉球ゴールデンキングスの一員となってBリーグを戦っている。本格デビューとなる2020-21シーズンはスタメン起用が4試合ほどあるものの、残りの23試合はベンチからのスタート(2021年1月3日現在)。プロとしての一歩は踏み出しているが、その道がけっして平坦なものではないことを、身をもって経験しているのである。
ただ、彼はそうした状況の変化に一喜一憂をしない。淡々と、内に秘めるものを宿しながらも、至って冷静に受け入れようとしている。
「僕はどちらかというと、これという持ち味のある選手ではないと思っています。だったらディフェンスが武器の小野寺(祥太)さんとか、そういった武器のある選手の方がピンポイントであれば使われやすいのかなって思います」
2020年12月13日の大阪エヴェッサ戦で今季初の「DNP」が付いた要因も、牧は冷静にそう分析している。
今シーズンの琉球には牧と同じポジションにキャプテンの田代直希がいて、小野寺がいて、さらに船生誠也と今村佳太が移籍で加入してきている。プロ1年目の牧が乗り越えるには、けっして低くない“ハードル”である。
だからといって、自分自身の軸を大きく変えるつもりはない。突出した武器を手に入れて、プレータイムを勝ち取ろうとも考えない。むしろ地道に積み重ねてきた“思考のバスケット”を追求し続けることで自らの道を切り拓こうとしている。
「自分は、状況に応じてバランスを取るなど、考えられるのが強みだと思っています。今のキングスには個性の強い選手が集まっている分、だからこそバランスを取った方がいいのかなとちょっと遠慮していたところもあったんです。ただ最近の練習でもガンガン攻めるというより、ボールを持つ時間を意識的に増やそうと考えてやっています」
今の自分に必要なのは積極的なアタックではない。簡単にボールを離さず、状況に応じたプレーの選択を的確にしていくこと。シューティングガードでありながら、ポイントガードの要素も取り込もうというわけだ。