『妻がずっと名前で呼んでくれない』
『筋肉痛で全身が痛い。身体のためにトレーニングしてがんばっているのに、この仕打ち。恩を仇で返すとはこのことか』
『滝廉太郎のような丸めがねが似合う人にあこがれる』
『黒い飲み物が好き。コーラ、コーヒー、ポン酢。以上』
『日曜の夕方が少し寂しいのは、いくつになっても同じだな』
ツイッターを利用しているバスケット選手は少なくないが、その内容の多くはバスケットに関係したもの。その中であまりバスケットには触れず、クスッと笑える広瀬のつぶやきはやや異色と言っていいだろう。あれ?広瀬選手ってこんな人だったの?こういうことを言っちゃう人なの?という新鮮な驚き。思えばSNS上で言葉を選びながら“素の自分”を見せることも広瀬にとっては新しいチャレンジなのかもしれない。もちろん、時にはバスケットについてまじめにつぶやくこともある。
『サンロッカーズのいいところって「かっこいい」が1番じゃないと思ってる。日本一の都会にホームアリーナを持ってるチームだけど、日本一一生懸命で泥臭く取り組むところだと思ってる。俺はチームがそこを目指していると信じてる。そのギャップだろ!? 手前味噌でした』
これを読んだとき思い出したのは広瀬が口にした「やりがい」という言葉だ。「天皇杯の決勝のときチャールズ・ジャクソンはロスターを外れていたし、田渡修人もケガで試合に出られなかった。だけど、今思ってもあれはジャクソンや田渡を含め全員で戦った試合だったと思うんですね。それぞれが自分の役割に“やりがい”を感じて、シーズンオフから積み重ねてきたものをコートでもベンチでもどこにいようとも全部出し切ろうと臨んだ試合でした。みんなが“やりがい”を持ってサンロッカーズらしく泥臭く粘り強く戦えたからこそ優勝できたんだと思います」。広瀬自身もまた自らに課したチャレンジに“やりがい”を感じたシーズンだったに違いない。
「このチームで天皇杯に続いてリーグ優勝もするつもりでした。優勝できるチームだと思っていました。それだけにコロナの影響とはいえリーグが途中で中止となったことはすごく残念です。だけど、リーグはなんとかして続ける方法を模索したと思うし、その結果中止になったのだから致し方ないですね。それにリーグが中止になったことで昨シーズン優勝したのはSR渋谷だけということになりましたから(笑)。もちろん今シーズンも優勝を目指しますよ。コートに復帰したとき、自分はまだ70%ぐらいしか力を発揮できなかったので、来シーズンは100%出し切れるよう頑張ります」
記事のタイトルは『34歳のチャレンジ』だが、7月11日に35歳の誕生日を迎えた。33歳で経験した大ケガ、長いリハビリ生活を経て34歳で立った復活のコート、その1つひとつを選手としての糧にしたい。新シーズンに向けて活動を開始したチームの中で広瀬健太の『35歳のチャレンジ』が始まる。
サンロッカーズ渋谷 #24 広瀬健太
34歳のチャレンジ
part1「バスケ人生で初めての大ケガ」
part2「努力は嘘をつかない」
part3「オフコートで見せる意外な素顔」
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE
画像 バスケットボールスピリッツ編集部