勝つことは大事。でも勝つだけで終わっちゃダメなんだ!
コロナ禍でもできることをしよう。世界を揺るがす災禍のなかでも歩みを止めない人たちがいる。日本のバスケット界でも、選手やコーチが家庭でできるトレーニングを紹介したり、チームやリーグがファン向けのコンテンツを制作したりしている。そのなかのひとつに「GBNセミナー」がある。正式名称は「Get better nowセミナー」。「今よりももっとよくなろうセミナー」といったところだろうか。主催者はB2のアースフレンズ東京Zのヘッドコーチ、東頭俊典である。
「今の若いコーチたちはすごく勉強熱心です。そのステージをもう一段階上げることができれば、よりよい情報にアクセスできると考えたんです」
きっかけは、八村塁の所属するワシントン・ウィザーズのアシスタントコーチ、ディビッド・アドキンスが東頭に資料を送ってきたところから始まる(「ガンバレ、八村ウィザース #6」参照)だが、一方で東頭はこのセミナーにさまざまな思いを込めていた。
ひとつは危機感である。
現代は誰もがさまざまな情報にアクセスできる。バスケットの戦術で言えば「ピック&ロール」が世界的に流行し、世界中のコーチがそれを取り入れようと学んでいる。Bリーグでもそれを採用するチームが多いが、はたしてそれは世界レベルで通用するものか。「日常を世界基準へ!」と掲げながら、昨年、男子日本代表が13年ぶりに出場したワールドカップの結果は5戦全敗だった。
「Bリーグのレベルは間違いなく上がっています。しかしそれが代表につながっているかといえば、僕はそう思えないんです。セミナーにも講師として出演してもらった前田顕蔵くん(秋田ノーザンハピネッツヘッドコーチ)や藤田弘輝くん(琉球ゴールデンキングスヘッドコーチ)にも言うんです。『勝つことは大事。でも勝つだけで終わっちゃダメなんだ』って。彼らは将来、日本代表をコーチの立場から担う存在だと思うからこそ、Bリーグが日本代表の強化につながらなければいけないんです」
東頭自身を含め、プロチームのヘッドコーチであれば、まず注力すべきは自チームの勝利である。そのために学ばなければならない。でももう一歩先があるのではないか。慧眼を自チームだけに留めず、日本代表の強化にも向ける必要もあるのではないか。
プロだけでない。育成年代を指導するコーチもまた、自チームの勝利を目指しながら、同時に選手をより高いレベルへと導く責任があるのではないか。東頭はそう考えたわけである。