シューターとして評価されて困惑するスラッシャー
チーム練習が行われていない期間も、比江島は一人でワークアウトを行いながらコンディションを上げていく。開幕1週間ほど前に開催地のラスベガスへ移動し、「はじめて選手全員とコーチ陣が顔を合わせました。最初の3日間は、1日2回のトレーニングキャンプ」をしながら準備を進める。チーム戦術を落とし込み、ルーキーたちはNBAのルールも把握しなければならない。「素晴らしいシューター」と比江島を評価するニューオリンズのコーチ陣は、フィラデルフィア・セブンティシクサーズから移籍してきたベテラン、J・J・レディックのようなプレーを期待していた。
地震によるアクシデントもあったが、ニューオリンズは5試合を消化。比江島の出場機会は2試合だけ、コートに立ったのは合計10.3分。5本放った3Pシュートは、一度もリングを通過することなく無得点に終わった。
「比江島がチームから求められていたのはシューターであり、今までやっていない役割でした」と稲垣コーチが言うように、ドライブで切り崩しながらリズムをつかむスラッシャーとは異なる。「順応できるかどうかも選手の能力ではありますが、そこで差が出てしまいました」と比較対象として挙げたのは、Gリーグへステップアップした馬場である。
「馬場選手がチームから求められていたのはハッスルすることと明確であり、身体能力だけでもGリーグのレベルと遜色がなかったです。シンプルにプレーを遂行できたことが評価につながったと思います。自分自身の特徴をアピールしながら、インパクトを残したことが大きかったです。対して、比江島はシューターとしてアピールすることができず、自己表現の差も出たと思います」
初見の選手がやるべきことはコーチの指示を完璧に遂行するか、またはそれを凌駕するパフォーマンスを見せられるかどうかである。2017-18シーズンのBリーグMVPは、初のサマーリーグで爪痕を残すことはできなかった。しかし、一番近くで見ていた稲垣コーチは比江島を評価する。
「28歳の日本人がペリカンズのロスターにギリギリで入れたことがすごいことですし、たぶん比江島以外ではできなかったです」
サマーリーグは若手の登竜門と言われるとおり、ルーキーやGリーグの選手たちがNBAへの準備や育成を行うこともひとつの役割である。今シーズン、NBA全体の平均年齢は25.9歳。平均25.3歳のニューオリンズにおいて、サマーリーグでの25歳オーバーは比江島しかいなかった。ドラフト1巡目1位指名されたモンスター、ザイオン・ウィリアムソンをはじめとした4人のドラフトメンバー、NBA経験ある2〜3年目の選手が5人、Gリーグのエリー・ベイホークスからトップチーム入りを狙う鼻息荒い選手たちの中に比江島もいた。
「言い方は悪いですが、BリーグでMVPを受賞した選手が海外(オーストラリア)に行ったけど成功せず、シーズン途中で日本に戻ってきたわけです。その年の夏にもう一回、海外でのプレーを求めました。しかも28歳という年齢を考えれば、なかなかできることではない。サマーリーグで結果を残すことはできませんでしたが、ロスター入りを勝ち獲ることはできたわけです。同じような境遇でもチャレンジするBリーグの選手は、なかなかいないと思います」
後編へ続く
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文・写真 泉誠一