── 先ほど藤井さんが「辻さんはただのシューターではなく、ゲームをクリエイトできる選手」と言いましたが、辻さん自身にもそういう意識はありますか?
辻 ありますよ。僕はパスにも自信を持っています。ターンオーバーもしますけど、僕の中では見る人を楽しませるパスとミスは紙一重なんです。もちろん普通のパスでクリエイトしてノーマークで打たされるというのは大事だし、そういうパスも出しますけど、僕が本当にやりたいのは見る人がハッとするような“魅せるバスケット”なんですね。それができているときはすごく楽しいし、自分の調子もいいように感じます。けど、最近はちょっと硬派になりすぎてるかなあ(笑)。堅実なバスケットをし過ぎててちょっとおもしろくないかなあというのはあります。
藤井 だけど、天皇杯の宇都宮戦(準決勝82-61)で辻さんを見て、僕は絶対優勝できると思いました。渋谷との決勝でも辻さんの気迫はすごかった。インフルで迷惑かけた自分が言うのもなんですけど、唯一心配だったのは辻さんにかかる負担の大きさです。1番をやったり2番をやったりするのは大変ですし、体力的にも相当きついですから。
── 藤井さんが言われたとおり、決勝戦(SR渋谷戦)での辻さんの気迫は見る者にも伝わってきましたね。残念ながら優勝は逃しましたが(73-78)、33分28秒出場して23得点の活躍でした。
辻 ものすごく悔しかったですけど、いい経験をしたなあと思います。肩の故障で戦列を離れ復帰したあと、12月に入った時点であとはメンタルのところだけだなというのがあったんですが、それがあの天皇杯で一気にバ―ッと戻ったというか。昔の自分を思い出したような気がしました。正直に言うと、天皇杯前まで調子はあまりよくなくて、天皇杯に入ってからも今一つ(調子が)上がってこなかったんです。そういう状態で竜青さんがいない中、祐眞まで欠くことになってしまって…。
── 「どうしよう、どうしよう」と。
辻 はい、どうしよう、どうしようと(笑)。でも、試合に入れば集中して、余計なことは考えませんでした。ポイントガードは試合中ずっと頭を動かしていないとダメですから、普段より相当エネルギーを使わなきゃならないんですね。ほんと、めちゃくちゃ疲れるんですよ。ゼーゼーハァハァという体力面の疲れじゃなくて、脳の疲れが半端ない。これをいつもやっている竜青さんや青木の大変さがわかりましたね。ほんと、すごいと思いました。
藤井 あれ、僕は?
辻 おまえは運動量でカバーできるからそれほど疲れないやろ(笑)。
── 辻さんに対するディフェンスのプレッシャーもすごかったですし。
辻 すごかったですね。決勝で言えば関野(剛平)とか山内(盛久)とか。オフェンスでも、山内は競った場面で落ち着いて3ポイントを沈めてきたし、レオ(ベンドラメ礼生)も終始果敢にアタックしてきました。自分もこれまで何度か1番をやった経験はありますが、あらためて振り返ると経験を頼りに戦った自分と生粋のポイントガードとの差が最後に出たのかなと思います。天皇杯までにもう少しシュートの調子が戻ってきていればよかったんですが。そこはシューターとして悔やまれるところですね。
part3「成熟度を増すことでチームはさらにステップアップできる」へ続く
文 松原貴実
写真 川崎ブレイブサンダース
試合写真 安井麻実、B.LEAGUE