その鈴木ヘッドコーチの言葉どおり熊谷は三河の一員になった日から『チームに必要とされる自分のプレー』について考え続けてきた。自分の武器となるもの、足りないもの。「自分のストロングポイントを挙げるとしたらやっぱりディフェンスだと思います。1番前からあたるポジションでもあるので、1Qの入りからエナジーを使うことで、みんなが『よし、ディフェンスをやるぞ』という気持ちになる。逆に自分がエナジーを出さないとそのまま緩い流れで入ってしまうことになります。だから、ディフェンスは常に全力でだれにも負けない気持ちで臨んでいます」。と、ここまでは明快な答え。が、次に“足りないもの”の話になると、う~んとしばし考え込んだ。「足りないものはいっぱいあるんですよ。いっぱいあり過ぎて絞りきれない」と苦笑い。「ほんとに足りないものだらけなんですけど、まずは外からのシュート確率ですね。2点シュートのフローターだったりジャンプシュートだったり、ほんとにすべてが力不足です。もちろんポイントガードとして足りないものはまだいっぱいありますよ。でも、言い出したらきりがないので、今日はシュート確率だけにしときます(笑)」
“見て学ぶ”と言っていたライバルチームのポイントガードの中でも富樫勇樹(千葉ジェッツ)のスピード、シュート力、フィニッシュまで持っていく力はさすがだと思うし、突出した運動量が生み出す藤井祐眞(川崎ブレイブサンダース)の躍動感はすごいなあと思う。審判のジャッジが納得できずコートがざわめくときも嫌な顔をせず、むしろそういうときほど笑顔で仲間をなだめる橋本竜馬を見たときは「周りの者を引きつけ1つにする力を感じた」と言う。ひと言に『ポイントガード』と言っても持ち味はさまざま。「得点力とかディフェンス力とかいろんな分野に分けたらそれぞれ上に挙がる名前も違ってくると思うんですよ」。それならば熊谷が目指すポイントガード像とはどんなものなのだろう。「僕の場合は何かに特別秀でているわけじゃありません。だから、というのはおかしいですが、僕はバランスが取れたポイントガードでありたいですね。スピード、シュート力、ディフェンス力、統率力、それらがすべてバランスよくそろっているガードが僕の理想です。何かは群を抜いているけど、ここの部分は他より劣るというのではなく、どの部分もバランスよく一定のクオリティーを持ったガードを目指したいと思っています」
後半戦に入ったリーグでの三河の成績は2月17日現在で17勝22敗と5割に届いていない。辛うじて中地区2位に付けてはいるものの開幕前に話題を呼んだ『圧倒的な攻撃力』を見せつけているとは言い難いだろう。「勝ちたいです。どんな形であってもチームを勝ちに導きたい」と、熊谷は言う。「自分がゼロ点でもチームが勝ちさえすればいい。勝つためにチームをサポートできるポイントガードになりたいです」
レギュラーシーズンも残すところあと2ヶ月。『チームを勝たせる』という荷物を背負った熊谷が続く試合の中でどんな成長の種を拾っていくのか。楽しみに、そして期待を込めて注目したいと思う。
シーホース三河 #11 熊谷航
成長の種は苦しい場所に落ちている
part1「先発ポイントガードとして迎えたルーキーシーズン」
part2「ポイントガードほどおもしろいポジションはない」
part3「どんな形でもいいからチームを勝たせたい」
文 松原貴実
写真 沼田侑悟