シーズンも折り返し地点を過ぎた今は少しずつ手ごたえも感じられるようになった。「最初のころは自分がコールするオフェンスに自信がなかったり、打てる場面で迷ってしまうことが何度もありました。(試合が)終わったあと、いつもあそこはああやればよかったなとか、こうやる方がよかったかなとかいろいろ考えていたんですが、行き着いたのはコールもシュートも『迷わずやろう』ということ。練習からそれは心がけていて、最近の試合ではノーマークのシュートは迷わず打てている気がします」
大学時代、留学生とのコミュニケーションの取り方に苦労した経験を生かし、外国籍選手に対しても自分の考えをしっかり通訳してもらう。「思ったことはためらうことなく伝えるのが大事だと思っています」。そのかいあってか外国籍選手からの信頼度も増してきたように感じる。「いえ、ちょっとずつ、ちょっとずつですが」と、照れ笑いする顔は本当にうれしそうだ。が、話が試合のことに移ると、その表情はすぐに真剣なものに変わった。2月に入ってすぐの滋賀レイクスターズ戦で三河は第1戦を82-57で快勝したにも関わらず、第2戦を57-81で落とした。大勝したチームに翌日大敗する。まるで真逆となった展開について尋ねると、熊谷は「勝因や敗因にはいろんな要素があって一言ではいえないですけど」と、前置きしたうえで「突き詰めれば、敗れた試合はポイントガードである自分の責任です」と答えた。
「1戦目は早くから波に乗れてああいう勝ち方になりましたが、2戦目の前にヘッドコーチから『今日は絶対昨日のようにはならないからもっと丁寧に戦うように』と言われたんです。ところが1Qでガードナーがファウルを2つしてしまいゲームプランが崩れました。そのことで焦ったのかみんなが早打ちするようになって、それが決まらないからまた焦る…という悪循環に陥りました。うちは高いオフェンス能力を持った選手がそろっているだけに劣勢になるとどうしてもオフェンスで挽回しようとしてしまう。本来ならディフェンスから流れを作らなければいけないのに、ついついオフェンスでなんとかしようとするんですね。そこで『それは違うぞ』と言うのがポイントガードの役目です。でも、あの2戦目に僕は『ディフェンスからやろう』という言葉を発信できなかった。ゲームを立て直せなかったのは僕の力不足だと感じています」
だが、苦い経験は薬になる。成長の種は“気づき”の中にある。今、熊谷の心にあるのは『チームを勝たせるガードになりたい』という強い気持ちだ。「そのためには嫌なことも言えるようにならなきゃなりません。ダメなときこそダメだとはっきり言う。みんなに嫌われてもいい。嫌われてもいいから信頼されるポイントガードになりたいと思っています」
part3「どんな形でもいいからチームを勝たせたい」へ続く
文 松原貴実
写真 沼田侑悟