それは、完成形のなかに入っていったアイシンシーホース(現・シーホース三河)や、在籍した4年間、ほぼメンバーが変わらずにチーム作りができた栃木ブレックス(現・宇都宮ブレックス)、そして個性の融合に苦しみながらも、一定の方向性を見出したと自負する琉球ゴールデンキングスなど、3つのチームで異なる経験したから古川だからこそ語れる言葉でもある。そうしたチームとしての“色” ─── 「クレイジーピンク」と呼ばれる秋田を示す色とは異なるチームとしての特色を、スタッフやチームメイトとともに作り上げたい。
もちろん選手としての本分ともいうべき、勝利への渇望も十分にある。古川自身はBリーグができて3年、チャンピオンシップの舞台を逃したことはないが、秋田自体はまだチャンピオンシップに出場したことはないのだ。
「秋田を選んだ理由としてそれを言わなかったからといって、チャンピオンシップに出なくていいとも思っていないし、優勝したくないってわけでもない。最終的には勝ちたいですよ。ただもっともっと積み重ねていかなければいけない小さいことの繰り返し、その小さいことをつぶしていかないとそこには行きつかないと思うんです。勝ちだけを取りに行くと絶対に勝てないと思うし、もし負け続けたとしても、そこから得るものは大きいから。ただ負けたから自分がこうしなければいけない、誰かがこうしなければいけないじゃなくて、負けても腐らずに、チームとしてこうしなければいけない、そのなかで自分はどうしなければいけないといったベクトルをそれぞれが共有して、チームをよくしていかなければいけません。そういう経験はシーズンが始まればできてくると思いますけどね」
その言葉どおり、2019-2020シーズンのBリーグが開幕し、古川孝敏が移籍した秋田ノーザンハピネッツはホームでの開幕戦を勝利でスタートすると、昨シーズンのリーグチャンピオン・アルバルク東京を下し、古川が昨シーズンまで所属していた琉球ゴールデンキングスにもアウェイで1勝をあげている。一方で昨シーズンの中地区で最下位だった横浜ビー・コルセアーズには敗れている。勝敗の波はあるものの、そこで生まれた気づきや反省の生かし方次第で秋田はまだまだ変われる。
トップリーグでの10年という歳月は確実に古川を成長させている。その中で醸成してきたリーダーシップで、いかに秋田に新しい風を吹き込めるか。
「僕も32歳ですから……もうベテランですよ(笑)」
そう言って豪快に笑う古川の表情は若いころのそれと変わりがない。ただその笑顔が刻む皺には、若いころとは比べ物にならない数多くの経験が詰まっている。
秋田ノーザンハピネッツ #51 古川孝敏
クレイジーピンクな“ONE TEAM”へ
part1、part2、part3
文・写真 三上太