『連覇は優勝より難しい』というのはスポーツの世界でよく聞かれることばだが、アルバルク東京の連覇も前年の優勝以上に厳しい道のりだったと言える。昨シーズンはワールドカップアジア予選が大詰めを迎え、日本代表メンバーの竹内譲次、田中大貴、馬場雄大がチームを離れる時間が長かった。加えてケガ人が相次ぎ練習に参加できる選手がわずか5人という時期もあったと聞く。しかし、そうした状況の中でも変わらなかったのはルカ・パヴィチェヴィッチHCが遂行する“質の高い練習”だ。
日本代表の暫定指揮官も務めたパヴィチェヴィッチHCの指導は細部に妥協を許さないことで知られる。「1年目はついて行くのがやっとでメンタルもかなり削られた」と、PGの小島元基が振り返るように常に完璧を求める日々の練習は容赦なく厳しい。が、それでも選手たちが心を折ることなく高みを目指すのは、選手の長所を見つけ評価することを忘れないコーチの姿勢によるものだろう。選手たちが親愛を込めて「ルカ」と呼ぶ名前はコーチへの信頼の表れかもしれない。
レギュラーシーズンを東地区3位(44勝16敗)で終えたA東京はワイルドカード1位のチームとして、チャンピオンシップをアウェーで戦うこととなった。クォーターファイナルは中地区1位の新潟アルビレックスBBに僅差ながら2連勝、翌週のセミファイナルは沖縄に飛んで西地区1位の琉球ゴールデンキングスと対戦。エースの田中大貴がハムストリングスを痛めて本調子ではない中、第3戦にもつれ込んだ激戦のシリーズを粘りのバスケットで勝ち取ったものの、火曜日に帰京し、4日後の土曜日にファイナルを戦うハードなスケジュールを余儀なくされた。だが、東地区の王者千葉ジェッツとの対戦を前にパヴィチェヴィッチHCが口にしたのは「琉球と3戦戦ったことで大貴のゲーム感も戻ってきたのは明るい材料。ファイナルを戦うためにしっかり準備をしてきた私たちに不安はない」という力強いことばだ。その言に違わず、田中と馬場をスタメンに起用したこの一戦は出だしから千葉を圧倒、終盤の猛追も全員で耐え切り栄えある2連覇を達成した。ワイルドカードから頂点を極めたA東京の戦いにパヴィチェヴィッチHCの緻密な戦術、戦略があったのは間違いないこと。ただそれは単に1つの試合だけではなく長いシーズンを通して貫いた“ぶれないチーム作り”の上に成り立ったものだ。「どんな状況下でも前向きに戦ったすばらしい選手たちに感謝したい」と語った“ルカ”の輝く笑顔に「コーチ・オブ・ザ・イヤー」の称号を贈りたいと思う。
文 松原貴実
写真 安井麻実