動き出した夢
応接室の扉がノックされ、アルバルク東京の広報、清水俊太郎が顔を覗かせた。
「あれ、まだ来てないですか?」
練習は30分以上も前に終わっている。シャワーを浴び、手早くランチを摂ってから応接室に来るという話だったが、まだ来ていないのはおかしいなと首をかしげる。
ちょっと探してきます。そう言って扉を閉めると、数分もかからず清水が戻ってきた。お待たせしました。そう言う清水の奥から「すいません、お待たせしました」とシェーファーアヴィ幸樹が顔を出す。
「NCAAトーナメントのファイナルが気になって、観ていたら、つい……」
気持ちはわかる。筆者も気になっていたため、待っている時間にスマートフォンで観戦していたほどだ。ヴァージニア大学とテキサス工科大学とのファイナルは40分でも決着がつかず、オーバータイムにもつれこんでいた。お互い結果が気になるのであれば一緒に最後まで見てからインタビューを始めようか。午後の練習もあるため、時間の確認をしたうえで我々は残りの数分間を一緒に観戦した。結果は85‐77でヴァージニア大学がNCAAトーナメント初優勝を飾った。
今年のファイナリストはアヴィ――厳密にはラストネームの「シェーファー」と書くべきだろうが、ここではより一般的によく呼ばれているニックネームを、尊敬と親しみを込めて使わせていただきたい――にとって、因縁のあるチームといっていい。敗れたテキサス工科大は、友人でもある八村塁擁するゴンザガ大学を破って、ファイナルまで勝ち上がったチーム。一方のヴァージニア大は数か月前までアヴィが在籍していたジョージア工科大と同じカンファレンス、ACC(アトランティック・コースト・カンファレンス)のチームである。
「ヴァージニア大は昨年も対戦していたチームなので身近に感じるというか、僕がいたジョージア工科大と同じACCというくくりの中では仲間のような存在なので、トーナメントに入ればやはりACCのチームを応援します。そういう意味ではヴァージニアが勝ってよかったなって思います」