part2より続く
これからも小さな一歩を積み重ねていく
アルバルク東京に移籍した年、シーズン開幕前に取材した小島はこんなことを語っていた。
「ルカ(パヴィチェヴィッチヘッドコーチ)の指導は質が高く、その分厳しい。常に完璧に近いものを求められ、すごく細かいところまで注意されます。毎日それに応えるために必死。本当に必死。結構メンタルが削られています」
それより数ヶ月前、アルバルク東京から届いたオファーに胸が躍った。「リーグでも一、二を争うトップチームから誘いがあるなんて想像もしていなかった。自分にとってビッグチャンスだと思いました」。不安が全くなかったと言えば嘘になるが、アルバルクには田中大貴、ザック・バランスキーという気心が知れた大学の先輩もいる。京都ハンナリーズで育ててもらった1年を経て、自分のプレーに少しずつ手応えを感じられるようになったのも確かだ。「だから(A東京に)入るまではわりと楽観的でした。自分ならイケるんじゃないかって、結構自信もあったと思います」。ところが、その自信は初日の練習でものの見事に打ち砕かれる。「コーチが求めることに応えられない。何をやってもうまくいかない。毎日の練習が心身ともにきつかったです」
パヴィチェヴィッチ新ヘッドコーチを迎えたアルバルク東京は、前年度のチームから伊藤大司、二ノ宮康平(ともに現滋賀レイクスターズ)というベテランガードが抜け、チームそのものが生まれ変わろうとしていた。その中でチームを牽引していく大役を任されたのが2人の若いポイントガード、安藤誓哉と小島だ。「周りを見てもリーグを代表するすごい選手ばかりで、これだけのメンバーがいて勝てないとしたら、それはもうガードの責任だなあって思いました。当然プレッシャーもありましたね」。頑張らなくては!と、気合いを入れてコートに立つのだが、その気持ちが増せば増すほど空回りしてしまう自分がいる。「リーグ前半はシュートも全然入らなかったし、自分のターンオーバーで試合を壊してしまうこともあって、追い詰められるじゃないですけど、(精神的に)どんどんきつくなっていきました」
だが、そんな小島を救ってくれたのは他でもない「練習中は容赦なく厳しいヘッドコーチだった」と言う。「自信を失くして本当に落ち込んでいたとき、ルカが僕を部屋に呼んでくれたんです。『シュートが入らなくても必要以上に気にすることはない。元基がいい選手だということを私は知っている。たくさんいいものを持っているのだから焦らず、自信を持ってプレーしなさい』みたいなことを言われました。めちゃめちゃ優しい言葉をかけてもらったことで気持ちが楽になったんです。おかげで後半から少しずつ調子が上向きになっていきました」。その先にあったのはチャンピオンシップの舞台。セミファイナルでシーホース三河と死闘を演じたこと、ファイナルで千葉ジェッツを圧倒したこと、チーム一丸となって栄えある優勝を勝ち取ったこと。「その全てが僕にとって言葉に言い表せないほど貴重な経験になりました。移籍1年目でこんな経験ができた自分はものすごく幸運なヤツだと思います」。てっぺんから見た景色を思い出すたび、ああ、またあの場所に行きたいと思う。「だから今年も行きますよ。あの景色を絶対見に行くつもりです」