10月24日に行われたサンロッカーズ渋谷―アルバルク東京戦は、残り1秒まで目が離せない激戦となった。わずか1点差でこのタフなゲームを制したのはA東京。1勝7敗という厳しい戦いが続くSR渋谷はこの一戦に勝利することで、今後の戦いに弾みをつけたいところだったが、最後の最後の逆転劇に涙を飲むこととなった。
「今(勝ち星に恵まれず)苦しんでいる渋谷さんが、何が何でもこのホームで1勝をもぎ取ろうという気持ちが伝わるゲームでした」――試合後、そう語ったのは62-61で激戦を制したA東京のルカ・パヴィチェヴィッチHCだ。「今回うちは田中大貴、小島元基というゲームをクリエイトしてオフェンスの中心となる2人の選手をケガで欠いていたこともありますが、(40分中)35分は渋谷さんの流れだったと思います。それを覆せたのは最後の最後まであきらめずに食らいついていったこと。選手たちは本当によくやってくれました」
パヴィチェヴィッチHCが語るとおり、立ち上がりから先行したのはSR渋谷だった。「相手には大きな選手が多くいるので、最初の5分ぐらいはゾーンで行こうと決めていた」(SR渋谷・伊佐勉HC代行)というディフェンスが機能して1Qに17-14とリードを奪い、途中逆転されても辛抱強く流れを渡さない展開で3Q終了時には52-44とその差を広げた。4Q8分には広瀬健太の連続3Pシュートで59-49、ここまでは間違いなく流れはSR渋谷にあったと言えるだろう。
しかし、SR渋谷はその後の得点チャンスをなかなかものにできない。その間にアレックス・カークのダンクシュート、ゴール下で粘り強さを発揮したミルコ・ビエリツァのシュートで試合の流れは徐々にA東京に傾いて行く。残り1分、カークのフリースローが1本決まると、ついにその差は3点(61-58)となった。
守り切りたいSR渋谷、覆したいA東京。緊迫したムードの中ドラマが起こったのは残り6.6秒だ。ビエリツァの3Pシュートを阻止しようとしたライアン・ケリーが5つ目のファウルを告げられ退場、同時にA東京は同点に追いつく3本のフリースローを得る。パヴィチェヴィッチHCは「まずは3本をしっかり決めて同点に追いつくことを考えていた」というが、ビエリツァの3本目のシュートはリングにはねられ、こぼれたボールを奪ったのはA東京のバランスキー・ザックだった。
1度3Pラインの外まで下がったバランスキーは、SR渋谷の守りを見てドライブを選択、シュートブロックを狙うロバート・サクレを視野に捉えると、その上を行くフローターシュートで逆転となる62点目を奪取した。「1度ドライブアウトしてからシュートを決めるのはとても高度なプレー。それをザックは落ち着いてよく遂行してくれた」とパヴィチェヴィッチHCが評する値千金の1本だったと言える。この時点でSR渋谷に残された時間は2.2秒。再逆転を懸けてサクレが放ったシュートはネットを揺らすことなく、61-62での敗戦が決定した。
開幕から8試合を消化して勝ち星1のSR渋谷にとってホームでの1勝は是が非でも手に入れたいものだった。35分間自分たちのペースで進んでいた試合ならば尚のこと、「勝てた試合だった」という思いも残っただろう。だが、指揮を執った伊佐HC代行は「ゲームとしては戦えていた」としながらも、敗因の1つとして「球際のところ、ボールへの執着心の差」を挙げた。
「これまでの敗戦を振り返ってもディフェンスで崩れたという感じではなく、やはり問題はオフェンス面。それもシュートが入る、入らないではなくて、チームでどれだけいいシュートチャンスを作れるかが課題となります。今日も大事な場面でタレントに頼ったり、チームでやらなくてはならないことができなかったりする場面がありました。勝ち切るためにはチームでしっかり守って、リバウンドを取り、チームとして戦うこと。それが全てだと思っています」
メインガードとしてチームを牽引するベンドラメ礼生は、担った責任の重さを噛みしめながら試合を振り返った。
「最後の4分間点数が入らなかった要因は、やはり“人任せ„だったような気がします。(ライアン)ケリーがあれだけ点を取ってくれて、サクレがインサイドで頑張ってくれて、周りは早い段階でボールを2人に預けてしまった。自分たちはスペースを取って2人の1対1を見守るという時間帯があったように思います。全員でボールを回して、全員がボールに触り、最終的にケリー、最終的にサクレの形が望ましいのに、それができていなかった。ボールを触っていないと、試合が終盤になったとき、ボールをもらいたがらないというか、気がつかないうちにボールをもらいに行かずに人任せになってしまいます。もちろん意識の問題もありますが、(戦術としても)簡単なフォーメーションではなくて、もっと違う形があったのかなとガードとして反省しています」
これまで8試合戦い、唯一勝利したレバンガ北海道戦も「相手のファウルによるラッキーな勝ちでした。そういった意味ではまだ自分たちの力で勝てていないし、まだ勝ち方というのを理解できていない。今日の勝敗を分けたのは勝ち方というか、勝てる自信を持つアルバルクとの差だったと感じています」
キャプテンの満原優樹が最初に口にしたのは「めちゃくちゃ悔しいです」の一言。
「アルバルクとは開幕戦で当たって悔しい思い(71-73で敗戦)をしているだけに今日は絶対勝ってあの悔しさを晴らしたいという思いが全員にありました。最後5分までは相手がやりたいプレーをやらせないことはできていたと思いますし、自分たちの得点が止まったときも我慢しながら走れていたように思います。けど、勝てなかったのは事実、求められているのは“頑張った„ではなく“勝利という結果„ですから」
その“結果”に結びつかない要因として挙げたのは「まず日本人選手のシュート確率の悪さです。ノーマークは作れているのに決め切れない。シュートの精度を上げていくことは自分自身を含め今後の大きな課題だと思っています。個人的にはキャプテンとして流れが悪いときもしっかりコミュニケーションを取ってチームの士気を上げること、プレー面では(相手の)外国籍選手とマッチアップすることが多いので、1対1で負けないこと。特にディフェンスではもっと頑張らなければなりません。今日の試合でもわかるとおり、勝つためには勝負どころの1本を押さえたり、逆に決めたりたりする力が必要です。僕らが身に付けなければならないのは、個人として、チームとしてのそういう力だと思います」。
最後の最後に手からこぼれた勝利のあとのインタビューが明るいものになるはずはない。ただし、伊佐HC代行、ベンドラメ、満原が語ることばにネガティブな印象はなかった。
「結果は厳しいものですが、誰も下は向いていません。まだ自分のポテンシャルの40%ぐらいしか出せていない杉浦佑成の成長にも期待していますし、チームののびしろを信じて上を目指していくつもりです」(伊佐HC代行)
「僕たちがいいバスケットをしているときはやはり人が動き、ボールが動いています。そのリズムを忘れないで、持ち味であるディフェンスをさらにハードにして戦っていきたい。
もう僕らは勝つしかありません。次は必ず勝ちます」(ベンドラメ礼生)
「苦しい状況にあるのはわかっていますが、リーグは長く、試合は続きます。今日は敗れたけどベンチの雰囲気は決して悪くなかった。あの前向きな雰囲気を継続していくことが大切だと思っています」(満原優樹)
そして、満原は最後にこうつけ加えた。
「このメンバーでこのまま終わるわけにはいきません。渋谷はこんなもんじゃない。それをコートの上で、全員で示したいです」
※10月26日付で勝久ジェフリーヘッドコーチ退任および伊佐勉ヘッドコーチ就任が発表された
文・松原貴実 写真・三上太