富山グラウジーズの宇都直輝がコートを力強く踏み込み、ゴールに向かって飛び上がった。ここまで来たら、もう止められるはずはない。あとはボールを流し込むだけさ。
しかし宇都のレイアップシュートはゴールネットを通過しなかった。
シュートミスではない。
まさか。そんなはずはない。ボールを放した宇都自身もそう思ったはずだ。
ボールは、宇都よりもさらに高く跳んだ横浜ビーコルセアーズのルーキー、満田丈太郎の手によって弾き落された。ブロックショットである。
宇都がそうだったように、富山のファンも呆気にとられ、しかしすぐに「ゴールテンディングじゃないか」とアピールをする。審判はノーコール。横浜ファンは富山サイドのアピールをかき消すかのような大歓声を上げる。
当の満田は弾き落としたボールを拾い、富山ゴールに猛然と突き進む。ファウル。フリースローを2本、しっかりと沈めた――。
横浜と富山によるB1残留プレーオフ2回戦は、横浜が79-76で富山を下し、来シーズンのB1残留を決めた。
昨シーズンの残留プレーオフ2回戦とまったく同じ顔合わせ。そのときは富山が横浜を下し、B1残留を決めている。その後、B2・3位との入れ替え戦を制した横浜も、なんとかB1残留を果たした。
迎えた2017-2018シーズンはお互い中地区に所属し、富山が24勝36敗で5位、横浜が18勝42敗で6位。リーグ成績では富山が上回っているのだが、6度競った直接対決は富山の2勝、横浜の4勝である。つまりこのカードはどちらが勝ってもおかしくないわけである。
そんななかで満田は富山のエースガード、宇都を止める役割を与えられた。ともに運動能力の極めて高い選手だが、満田がルーキーであるのに対して、宇都は専修大学を卒業後、トヨタ自動車アルバルク(現アルバルク東京)で3年プレー。Bリーグ開幕の昨年、富山に移籍し、その才能を一気に開花させると、日本代表にも選出されるなど高い経験を積んできている。
昨シーズンの残留争いでも、いわゆるアーリーエントリーで横浜入りして数か月しか経っていない満田は、第4Qの残り8秒、湊谷安玲久司朱のファウルアウトによってコートに立っただけなのに対して、宇都は40分間フル出場。むろん、満田は出場時間以外の記録を何も残せていない。
しかし今シーズンの満田は開幕当初こそベンチスタートだったが、10月14日のアルバルク東京戦からスタメンに起用され、その後も何試合かベンチスタートになっているが、レギュラーシーズンの全60試合中42試合でスタメンに名を連ねている。
「昨シーズンに比べてプレータイムが増えたので、コートに出ている以上仕事をしなければいけないですし、シーズン終盤になるにつれて、第4Qの大事な場面でも出してもらえるようになったので、(残留プレーオフという)大事な試合でしっかり結果を残すことがチームに対する恩返し……じゃないけど、チームもそれを欲していると思うので、それを意識して、ただ自分は100%ディフェンスをする気持ちでやっていました」
その「100%ディフェンス」という気持ちが、冒頭のブロックショットを引き出したのだろう。会心とまでは言わないまでも、一定以上の手ごたえを感じたプレーかと思ったが、満田の1試合を通した自己採点は「20点」と低い。別の記者から「あの会心のブロックがあったのに?」と聞かれると、満田はこう返してきた。
「あれが試合終盤の、必要な場面で出ていたら、もっとよかったかもしれません。でも前半のことなので、それで流れでよくなったとしても前半のことでしかありません。それで『いいブロックしたな』と思っていたら、次のディフェンスがしっかりできないので、過ぎたことは過ぎたこととして、今を意識しながら今日は後半も戦いました」
このメンタリティこそが満田を横浜のスタメンにまで引き上げた要因の1つではないだろうか。若く、運動能力が高いというだけでなく、ワンプレーに一喜一憂しないメンタリティを学び得たことで、満田は試合終盤にも大きな仕事をやり遂げている。
第3Qの残り24秒から第4Qの残り4分10秒まで、満田はベンチに下がっている。その直前にミスを犯したこともあるし、休憩の意図もある。しかしその間、富山に一気に走られ、ビハインドを9点にまで広げられている。しかも満田が戻ったのは富山の大黒柱、サム・ウィラードがバスケットカウントを決めたときだった。フリースローも沈められ、9点差。流れは完全に富山に傾いたと思われたときだった。
しかし直後のオフェンスで満田は3ポイントシュートを沈めている。けっして得意とは言えない外角のシュートだが、4分34秒間のベンチで満田はこんなことを考えていたという。
「たぶん4Qの最後に出されると思っていたので、オフェンスに関しては、今日はタフショットが多かったので、しっかりキャッチ&シュートを打つというか、迷わないようにしようと考えていました。ディフェンスも後半になって迷う部分もあったので、改めて宇都さんの動きをしっかり見て、迷わないことをしっかりやっていこうと思っていました」
コートに戻り、ウィラードのフリースローが入るのを確認すると、チームオフェンスの指示を仰ぎながらも、満田は違うことを考えていた。
「フォーメーション的にはタクさん(川村卓也)が打つシチュエーションだったんです。でも相手もそれをわかっていて、先読みして来るんじゃないかと頭の中にあったんです。案の定、先読みして、僕がフリーになる状況で、そこまでは想定内だったので、あとは決めるだけという気持ちで打ちました。ベンチで『迷わない』と決めていたので、それがいいように転がったというか、しっかり決めきれたのでホッとしました」
ウィラードの3点プレーで流れを掴んだかに見えた富山だったが、満田の3ポイントシュートがそれを覆した。9点差が6点差になった以上のダメージを富山は負ったに違いない。
直後のプレーでウィラードがシュートを外すと、ディフェンスリバウンドを取った満田が速攻に走り、細谷将司にアシストを決める。4点差。
富山は水戸健史の1対1で返すが、横浜は川村のゴール下、速攻からハシーム・サビート・マンカのダンクを続けざまに決めて、同点に追いつく。富山タイムアウト。
しかし傾いた流れは容易に変わらない。残り1分46秒に満田が宇都からファウルを受け、そのフリースローを2本きっちり決めて、逆転。
その後の富山の攻撃を必死に食い止めた横浜が昨シーズンの借りを返し、B1残留を決めた。
昨シーズンに続き、シーズン途中でのヘッドコーチ解任・交代があり、残留争いにまでもつれ込んだ横浜だが、満田のステップアップは今後のプラス材料の1つといえるだろう。満田自身も今シーズンを振り返って、手ごたえを感じている。
「最初はプレータイムもなかったですし、ピックの使い方も、速攻にしてもただガムシャラに、全力でやっていたんです。でも常に100%だと自分でも制御しきれないことがあったので、100%を80%くらいにスローダウンさせて、周りを見なさいとチームの人全員から言われていたんです。もちろん100%でも行くときもあったけど、スローダウンする中で自分をどれだけ生かせるかをいろいろ試しながらやっていた1シーズンでした。シーズン後半になると、力のコントロールだけじゃダメだと思って、シュート練習もしましたし、ピックの使い方もアシスタントコーチとマンツーマンで練習をしてきました。それらが少しずつ形になってきていると思います。勝負どころはまだ川村さんに頼ってしまうところもありますが、そこでもう1つステップアップして、自分もシュートを決められるようになったら、もっといいプレーヤーになれると思うんですよね」
約15分間の囲み取材で感じたのは、満田は先輩たちから愛される選手だということ。対宇都のディフェンスでは竹田謙、高島一貴から「もう半歩詰めるように」というアドバイスを受けたと明かし、川村からは「シーズンオフにもっとシュートを打ち込め。そうしたらお前のドライブがもっと生きる」とアドバイスをされたという。「力を抜いて、もっと周りを見ろ」と口酸っぱく言い続けてくれたのは蒲谷正之だ。
「そういう人たちからのアドバイスを100%実現できれば、自分のなかで吸収できることもあるのかなって。やってみて、もしそれが自分に合っていなければ、自分の考えを出してみようと。だから今シーズンは言われたことを全力でやるように意識しました」
チームとしては今年も苦しいシーズンだったが、そのなかで謙虚な姿勢を貫いてステップアップした満田は、来シーズンのB1でどんな成長ぶりを見せてくれるのか。
若き海賊の航海は続く。
文・三上太 写真・安井麻実