昨年11月に2016年度の決算報告で公表されたトップチーム人件費において、B1最下位は新潟アルビレックスBBの9702万円だった。1億641万円と2番目に低いのがレバンガ北海道である。あくまで昨年の決算資料のため参考でしかないが、今シーズンの両チームはアルバルク東京に対し、新潟は3勝1敗と勝ち越し、北海道は3勝3敗で並んだ。そのA東京の人件費は3億2744万円で千葉ジェッツ、栃木ブレックスに次ぐ3番目の高さである。バスケットは何が起こるか分からない。だから、おもしろい。
用意してきたものを出せば対等に戦えることを証明
人件費が限られ、タレントを揃えられなければ戦術や戦略を駆使して、勝利を見出すだけである。北海道はレギュラーシーズン最後となった東地区1位のA東京戦を1勝1敗で終えた。初戦は敗れたが、前半に20点のビハインドを背負ったハーフタイムに水野宏太ヘッドコーチはこう選手に伝えている。
「ゲームの入り方や全てにおいて、今週の練習で用意してきた自分たちがやるべきことをやれてない。自分たちのプライドを見せること、自分たちがやってきたこと、自分たちの良さをしっかり出せ」
その先には、「それを全面に出さなければ何も得るものもないという覚悟を持て」とまで言いたかったが、この日はその言葉を飲み込み、自分自身に言い聞かせた。80-84と惜しくも敗れはしたが、しっかりと北海道の選手たちはプライドを取り戻して戦った。
水野ヘッドコーチが「用意してきた自分たちがやるべきことをやれてない」と発破をかけた後半だけの結果を見れば、57-38で圧倒している。続く2戦目は前半からやるべきことを出し、87-81で勝利を挙げた。しっかりと対策をし、コート上で表現できれば、人件費で大きく差があるクラブとも対等に戦えることを証明して見せた。
「残りゲーム数も少ないので、なんとか今よりも上に行きたい気持ちで全員がいます。最後まで諦めない戦いを毎試合していかなければなりません」
土曜日の初戦、折茂武彦選手は後半に追い上げるきっかけとなった3Pシュートを決めていった。負けられない気持ちもさることながら、25シーズンに渡って変わらない「自分の仕事は空いたら打つだけ」を全うした。その日は12点を挙げ、「流れを変えるひとつのプレーだったのは良かったかな」と自己評価する。続く2戦目も9点と活躍し、気持ちだけではなくしっかりと白星を勝ち獲り、北海道のベンチ裏やゴール裏を陣取って声援を送ってくれたファンと喜びを分かち合った。
「アウェーながら本当にたくさんの北海道のブースターの皆さんが来ていただき、その中で恥ずかしくないゲームはできたかな。これからもこの気持ちで戦っていきたいです」(折茂選手)
ともに成長し、北海道を勢いづけるルーキーズ
初戦に敗れたあと、「最後のゲームマネジメントのところで、自分がもっと良いアイディアを持ってできていれば……結果論ではあるが自分に対する悔しさがある」と水野ヘッドコーチは自分を責めていた。折茂選手も、「追いつくところまでは非常に良かったのですが、途中でターンオーバーがあったり、行かなければいけないところを躊躇したり、そういうところがまだゲームを締める場面でうまくいっていない。やっぱり、本当に強いチームは最後の場面こそきっちりしています。まだまだうちはそういう部分でうまくいっていない」と課題点を挙げた。
関野剛平選手や川邉亮平選手の成長とともに、北海道が強くなっている。その一方で経験不足も否めない。だが、折茂選手兼社長はルーキーたちに対し、「今は思いっきりやれば良いんです。ミスしたことも彼らの経験になり、それに対してどうこう言うつもりも全くない。僕も含めたベテランやガード陣がもう少しコート上でコントロールできれば、良い方向に変わっていくと思います」とさらなる期待を込めた。若い彼らが北海道を勢いづけているのは間違いない。
A東京戦では、シーズン終盤に向けて準備してきた秘策を水野ヘッドコーチは早々に披露している。
「トンプソンを3番で使うという変化球は練習でやり始めていたばかり。リバウンドを獲られ、アドバンテージを取れない中でその選択をゲーム中にしたが、この試合ではうまくハマってくれた」
3月に加入したばかりのディジョン・トンプソン選手は201cm、UCLA時代はスモール・フォワードだった。その後、NBAフェニックスサンズではシューティングガードを担い、本来はアウトサイドが得意な選手である。トンプソン選手を3番で起用できるのは、「サイズのアドバンテージがありながらも彼らがしっかりつないでくれたからこそ、そのオプションも思い切って使うことができた」とパワーフォワードとして奮闘した野口大介選手と川邉選手の名を挙げた。準備してきた中から、より良い選択をして立ち向かう水野ヘッドコーチは高い評価を得ている日本人ヘッドコーチである。
目標はチャンピオンシップ出場以上!
現時点で23勝23敗。勝率を五分に戻したが、Bリーグ屈指の強豪揃いの東地区では最下位になる。目標はチャンピオンシップ出場以上であり、ワイルドカード圏内までたった2ゲーム差と十分射程圏内にいる。
水野ヘッドコーチは「我々の目標を信じてともにたたかってくれているファンやスポンサーのためにも勝ち星を是が非でも取りたい」と言うとおり、満足させるためにも勝つしかない。だが、未来につながる姿を示す北海道は、顧客満足度の高いチームと言える。最終的に評価するのはファンであり、その成果は観客数が物語っている。
平日集客が好調な北海道は、月曜開催が多いにも関わらず平均3966人をきたえーるに集客している。昨年12月20日の水曜ゲームは4431人、次節3月28日(水)はさらなる集客が期待される。何よりも相手は勝率で並ぶサンロッカーズ渋谷とあり、目標とするチャンピオンシップに向けてもう負けられない。ちなみにSR渋谷の人件費は1億7029万円だった。
文・写真 泉 誠一