ハーフコートラインからマッチアップが始まる場面でも、田臥勇太選手だけは必ずコートの3/4クォーターから前掛かりにディフェンスをセットする。それは今始まったことでも、チームの約束事でもない。能代工高時代のフルコートディフェンスを覚えている方も多いことだろう。体に染み込んだディフェンスは、あの頃を彷彿とさせる。
「勇太さんが前からプレッシャーをかけてきてくれることがうれしい」と笑顔を見せたのは、アルバルク東京の安藤誓哉選手である。自らディフェンスする時には「半歩前、一歩前、気持ち的にはいつもよりも前掛かりになって守っていた」と無意識に対抗意識を燃やしている。
「勇太さんはやっぱりバスケが好きというのが根底にある選手」
2シーズン前、安藤選手は栃木の控えポイントガードだった。田臥選手、渡邉裕規選手に続く3番手であり、当時の出場時間は平均6分程度(今シーズン平均25分)。田臥選手はNBAを頂点としたアメリカで、安藤選手はカナダやフィリピンで、ともに海外プロリーグでのプレー経験がある。弊誌フリーペーパー今月号の特集「OUT of STANDARD」にも載せたかった選手たちだ。
栃木でチームメートだったとき、「ポイントガードならば、ヘッドコーチとのコミュニケーションは取って当たり前であり、一番話す機会が多いポジションでもある」など、シューティングガードからコンバートしてまだ日が浅かった安藤選手は様々なアドバイスを受けた。間近で感じる田臥選手の印象は「やっぱりバスケが好きというのが根底にある選手」。37歳になった今なおリーグ屈指のポイントガードとして君臨。安藤選手が抱く印象は、バスケ愛と技術が比例していることを証明していた。
昨シーズンは秋田ノーザンハピネッツ、今シーズンはアルバルク東京とチームを転々とする安藤選手だが、同じ東地区にいることで田臥選手とマッチアップする機会は多い。
「常に勝ちたいという気持ちがある。だからこそ、気持ちの入り方は普段の試合とは違いますね」
対する田臥選手もまた、安藤選手のことをライバル視していた。
「思い切りの良さや得点力もあり、ディフェンスも一生懸命がんばっています。A東京のスタイルの中で自分を発揮しようということはマッチアップしていてもすごく感じられました。対戦していてもすごくやり甲斐を感じられますし、一生懸命やってる姿が僕にとってもすごく刺激になります。お互いにしのぎあってレベルアップしていきたいです」
ヒーローになりきれなかった3ファウル
「4クォーターの大事なところで得点を決められたのは良かったです」と安藤選手は、75-67で勝利した試合を振り返る。4クォーター開始2分、ドライブから53点目、3Pシュートで56点目と連続得点を挙げた。だが次の瞬間、3つ目のファウルを犯してしまう。ルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチは小島元基選手との交代を告げた。まだ残り時間は5分以上ある。温存するだけかと思いきや、その後はコートに復帰することなく、ヒーローになりきれなかった。ファウルが混んだだけではないことを安藤選手自身は分かっている。
「ディフェンスでソリッドしきれてなかった(堅実に守れていなかった)。あの場面ではファウルをせずにしっかりマークマンについていかなければならなかったのにファウルをしてしまった。それはもう交代されても致し方ないです」
「ポイントガードは(安藤選手と小島選手の)2人でタイムシェアしている。誓哉も4クォーターに良いインパクトを見せくれていたが、交代した元基も良いパフォーマンスをしていたのでそのまま使い続けた」のが真相である。以前、パヴィチェヴィッチヘッドコーチは、「誓哉も元基もまだまだ学ぶことは多く、成長して欲しいことが攻守に渡って多くある」と話しており、互いに20分前後のチャンスを与えている。23戦目を終え、ヘッドコーチが求めるプレーは「徐々に理解できていると思います」と安藤選手は手応えを感じ始めていた。
ポイントガードとして成長するため、自分の理想像に近づくためにも、「自分がフィニッシュしなければならないし、さらに上に行くためにもそれが必要」と言う。「中に切れ込むドライブやアグレッシブさ」を挙げた田臥選手とは異なるストロングポイントを磨いていかねばならない。
チャンピオンシップさながらのディフェンシブな戦い
ホームで2連勝を飾ったA東京は今シーズン通算4連勝とし、ディフェンディングチャンピオンに対して早々に勝ち越しを決めた(残り2試合のみ)。現在、A東京は東地区首位におり、対する栃木は東地区最下位(6位)に甘んじている。
栃木はヘッドコーチ交代から1ヶ月が経過。11月以降は東地区のライバルである千葉ジェッツや川崎ブレイブサンダースにも勝利を奪い、これまで7勝5敗と勝ち越している。A東京に勝つことはできなかったが、手応えはしっかりとつかんでいる。
「ヘッドコーチが求めているバスケットは日に日に、試合を重ねるごとにみんなしっかり実行しようと、まとまりがどんどんできてきています。もちろん勝ちにつなげられるようにやり続けることが大事ですが、全員でひとつになって今のブレックスの目指すバスケットを1試合1試合積み重ねて形にしていきたいです」(田臥選手)
「激しいディフェンスで40分間プレッシャーをかけ続けたA東京は素晴らしい」と敗れた田臥選手は相手を称えた。だが、「基本に立ち返ってディフェンスの激しさを40分間、最初から最後までチャレンジャーとして出そう」という安斎竜三ヘッドコーチの指示を守り、お互い鬼気迫るディフェンスはチャンピオンシップさながらの緊張感さえあった。
簡単に得点が入るスポーツだからこそ、ディフェンシブなゲームはおもしろい。この日はこの二人のマッチアップのほかにも、遠藤祐亮x田中大貴をはじめフィジカル強くぶつかり合う攻防がそこかしこで見られていた。単なるロースコアゲームがディフェンシブな戦いではない。このような試合が続いてこそ、Bリーグはもっとレベルアップできるはずだ。
文・写真 泉 誠一