迎えたbjリーグ2013-14シーズン、そのシーズンを制した琉球ゴールデンキングスとの開幕戦でいきなり34点を挙げ、ようやく本来の姿が戻ってきた瞬間である。(その当時の模様は当サイト内「ノリノリトーキョー」で紹介してます)
しかし、井手選手の不運はまだ終わりではなかった。2シーズン、東京Cでプレーした後、新規参入した金沢へ移籍。すでに紹介したとおり、Bリーグ元年はB3でのスタートを告げられ、陽の目を浴びることのない戦いを強いられたわけである。
振り返れば、波瀾万丈のバスケ人生だった。それでも、その才能を己が信じて諦めずに突き進み、壁が立ちふさがっても多くの人たちが手を差し伸べてくれた人望の持ち主でもある。
「いろんなことがあったけど、それでもバスケで生活できるようになった。今だからこそ、子どもや若い人たちに僕の経験を伝えていきたいです。良い悪いは別にして、自分がプロになった経緯を子どもたちに話すことで、何かのきっかけにしてもらいたい。バスケを通して触れ合う活動はすごく意義があると思っています」
「B2にいたら、試合できねぇんだよ!」と発破をかける旧友
昨シーズン開幕早々、アウェー戦に臨むもチーム全体が食中毒を起こし、その試合自体が中止になる。不運続きの井手選手に、めずらしくLINEをしてきたのは旧友、篠山選手だった。「『大丈夫?』とともに、『早く上がって来いよ!』」というメッセージが送られてきた。悶々としていたB3の現実を目の当たりにした頃であり、さらに奮起する。早くB1と対戦して実力を示したいと息巻いていたが、そのチャンスを自ら逸した天皇杯2次ラウンドの敗戦(●81-82茨城ロボッツ)が悔やまれる。
井手選手に取材をした翌日、川崎戦で篠山選手にもメッセージをいただくと、「すごくガムシャラなファイターなので、正直言ってやりたくない」と切り出す。井手選手が、「たぶん篠山は僕とのマッチアップを嫌がると思う」と言っていたとおりだった。
「B1でやれる力は持っている選手です。大学卒業後、1度はサラリーマンになり、そこからプロになった選手でもあるので、すごく強いメンタルを持っている。B1で待ってるんで早く上がって来い」
去り際、「B2にいたら、試合できねぇんだよ」と付け加えてくれた。このように言い合える仲がうらやましい。北陸高校出身の29歳は篠山選手と多嶋選手だけではなく、井手選手がいることもお忘れなく。
文・写真 泉 誠一