本来、“ディフェンスの人”である。
チームを率いる梶山信吾ヘッドコーチも「彼がコートに立つと(周りに与える)影響は大きい。彼自身も自分の役割をはっきりとわかっている」と言う。
彼、藤永佳昭の持ち味はディフェンスである。
「ディフェンスを一生懸命やり、ダイブしてでもボールを取る」と言うのが梶山ヘッドコーチの藤永評でもある。
それは今の、Bリーグ第4週が始まる前の名古屋ダイヤモンドドルフィンズに最も欠けているところであり、三遠ネオフェニックス戦の第2戦、梶山ヘッドコーチは「ディフェンスを頑張ってこい」と藤永をコートに送り出した。
名古屋Dは21日、開幕戦以来となる勝利をホームの愛知県体育館であげていた。
しかし内容はけっして芳しいものではない。
第2Qで最大26点まで開いた得点差を後半の19分間で吐き出し、残り1分からの勝負でなんとか突き放しているのだ。
むろんそれがバスケットだとも言える。
大差を追いかけるチームは追いつくことに力を使い果たし、追い越すエネルギーが残っていないことは多々ある。
だとしても、後半の失速はあきらかに名古屋Dのチーム状況を表していた。
果たして翌22日。
序盤からペースを握ったのは三遠だった。
名古屋Dは6点ビハインドで第1Qを終えている。
第2Q開始と同時に、梶山ヘッドコーチは藤永を投入した。
藤永が言う。
「最近、チームの失点が多いことがすごく気になっていて、僕はそういうチームが嫌なんです。もちろん梶山ヘッドコーチも失点を多くしていいとは思っていないわけだけど、選手同士で勝つためにはチームディフェンスが必要なんだと確認していました」
彼自身も、自らの投入が他の選手に向けた「ディフェンスの時間だ」というメッセージでもあることを心得ている。
そこから名古屋Dの歯車がかみ合い始める。
ディフェンスでボールを奪うと、藤永がしっかりとゲームコントロールをして、得点を重ねていったのだ。
このゲームコントロールも藤永が自信を持っている部分だ。
「ボールが止まったときにボールを展開したり、チームオフェンスの流れをよくするのが僕の仕事です。今日はベンチから見ていて、僕が出たらしっかりとコールして、みんなの共通理解を得てプレーしたほうが絶対にいいと思っていました」
ディフェンスで相手を苦しめ、ボールを奪えば、全員の共通理解のもとでしっかりとスコアしていく。
それが2分半で同点、3分半で逆転という、第1Qとは異なるゲームの流れを生み出したのである。
さらに。
名古屋Dには藤永を含めて3人のポイントガードがいる。
スタメンで、藤永とは同じ年の笹山貴哉と、ベテランの柏木真介である。
今節は柏木のコンディションがよくなく、欠場を余儀なくされた分、これまで3番手に甘んじることの多かった藤永のプレータイムもおのずと増えていった。
そしてもう一人のガード、笹山は藤永とは対極にあり、“動の笹山(貴哉)、静の藤永”とでも言うべきか、攻撃的で、ペイントエリアにもぐりこんでからのフローターシュートなどを得意とするガードである。
一方の藤永はどちらかといえばゲームコントロールを中心とした、オールドスタイルのガードだ。
チームとしてはそれを交代で使えば相手ディフェンスのリズムを狂わせることができるし、一緒に出てもバランスを取り合うことで相殺にならない。
事実、この日も第2Qと第4Qに2人は同時にコートに立ったが、第2Qは藤永がポイントガードとしてゲームをコントロールし、第4Qは笹山がポイントガードとして、最後の波を作り上げていた。
「最近、一人の選手がボールを持ちすぎて、ボールが止まっている時間が長いので、僕が出ているときは、他の選手がストレスのなくプレーできるように意識していました。今日はそれがよくできたと思います」
藤永は第2Qのゲームコントロールをそう語り、一方で第4Qについてはこう言及する。
「ササ(笹山)がいいプレーをしていたので、そのまま乗せてあげようと思って、ポイントガードを彼に任せました。もしササが疲れてきたら、呼ばれるので、そのときは僕がコントロールをしようと」
結果として第4Qに藤永がゲームコントロールをする時間帯はなかったが、その間も173センチの彼は、ビッグマンのディフェンスに対してスクリーンをかけるなど、献身的な働きでチームの波を陰ながら支えていた。
「すべてはチームのためです。ああしたスクリーンプレーが必ず勝利につながると思っていたので、それがいい方向に転んでくれてよかったです」
チームの勝利のためならば、持ち味であるディフェンスはもちろんのこと、ゲームコントロールだろうが、スクリーンだろうが、やれることはすべて全力でやるというわけだ。
そしてもうひとつ、この試合で藤永の新たな“顔”が垣間見えた。
それは第2Q、逆転に成功した名古屋Dが、そこからもう一伸びを出せていなかった時間帯のこと。
残り1分8秒のところで藤永が3ポイントシュートを沈めたのである。
それで得点差は10点の壁を越える。
「最近シュートには自信を持っているんです。シュートそのものも改善して、2ポイントも3ポイントもジャンプシュートにして、それが安定してきています。いや、まだまだ安定感はないけど、自信を持って打てるようにはなってきました」
そういえば、本誌の取材で開幕前に張本天傑選手――今節は腰痛のため帯同せず――を訪ねたとき、藤永はコーチとともにさまざまなシチュエーションでのシュート練習を何度もおこなっていた。
そうした成果が彼の自信となって、流れに棹差すシュートを生み出したわけだ。
「やはり試合に出ていない分、人よりも練習をしないといけないので、練習後はコーチにメニューを考えてもらって、ずっと一緒に練習しています。それはこれからも続けたいですね」
本来、“ディフェンスの人”である。
いや、“ディフェンスの人だった”と言ったほうがいいのかもしれない。
梶山ヘッドコーチも「(藤永は)もうディフェンスだけじゃないですよ」と認めている。
「本数は少ないけど、ここぞというときに決めてくれるのでボクも信頼しています」
チームの勝利のためにディフェンスで相手を苦しめ、チームメイトにストレスを与えないようなゲームをコントロールする。
さらにはスクリーンで自らの体を削り、そのうえでシュートもきっちりと沈める。
練習から労を厭わない。
藤永佳昭は“努力の人”である。
文・写真 三上太