関西アーリーカップを制した直後、開口一番「周りには勝って当然と言われてますが、僕らはそんなことは思っていません」と新指揮官の佐々宜央ヘッドコーチは言った。全くもって同感である。
昨シーズンのファイナルMVP古川孝敏選手、帰化選手であるアイラ・ブラウン選手は大型補強と言えよう。だが、優勝メンバーの須田侑太郎選手は、栃木時代において常に先発を任される選手ではなく、二ノ宮康平選手も然りである。ヒルトン・アームストロングは周りを生かすのに長けた選手だが、自ら20点を取るような選手でもない。佐々ヘッドコーチも、名将たちの下でアシスタントコーチとして様々な経験を積んだが、指揮を執るのは初めてとなる。「何も成し遂げていないチーム」と岸本隆一選手が言った通りであり、これまた同感である。
日本代表をはじめ、世界的名将たちの“良いところ取り”采配に期待
佐々ヘッドコーチは、学生コーチとして東海大学の陸川章ヘッドコーチから始まり、日立サンロッカーズ時代は小野秀二元ヘッドコーチ、栃木ブレックスではアンタナス・シレイカ元ヘッドコーチ、トーマス・ウィスマン元ヘッドコーチ、そして日本代表として長谷川健志ヘッドコーチ(現栃木)、ルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチ(現アルバルク東京)と日本はもとより、世界のトップクラスのコーチ陣に師事してきた。
そんな名将たちの“良いところ取り”をしながら、どんな采配をするか期待が持てる。富山グラウジーズとのプレシーズンゲーム2試合とアーリーカップでの2試合が、初めての実戦となった。「反省点はいっぱいありますね。オフェンスの組み立ては全然できていません」と佐々ヘッドコーチは自身の出来を振り返り、まだ理想にはほど遠い。それでも富山に1敗を喫しただけであり、アーリーカップを優勝に導いたことは大きな自信となったはずだ。
現在、ディフェンスをベースにチーム作りを始めている。アーリーカップでは西宮ストークスを75-65、滋賀を74-68といずれも「60点台に守ったディフェンスは評価したい」と収穫を得ることができた。7人が入れ替わり、期待されていた古川選手が手術のために出遅れる中、急がず焦らず一つひとつを確実に積み上げていくしかない。
闘志をむき出しにして戦えるかどうか
昨シーズン、チャンピオンシップファーストラウンドでシーホース三河に敗れたあと、対等に戦えた自信とともに「何かプラスαがなかったから勝てなかった。その何かを今後は見つけていきたい」というコメントを岸本隆一選手は残していた。プラスαを補うだけの戦力は揃った。岸本選手自身は「見ている人には分からない部分」でバージョンアップに勤しんでいる。
「ディフェンス時、はじめから勝負に行かなくなることがこれまでは多かったですが、今シーズンは意識してファイトしようとしています。佐々さんもそういうところが勝たせる雰囲気に持って行けるんだぞ、と言ってるので、ヘッドコーチを信じて突き詰めていきたい」
残念ながら、決勝での滋賀戦でそのプレーは見られず、反省点として挙げていた。
「ここ1本ボールを獲らなければいけない、ファイトしなければいけない本当の勝負どころで、まだまだヘッドコーチが求めていることを100%できていません。僕ができなければ、チームとしても士気が上がりません」
これまで以上にボールへの執着心を見せ、闘志をむき出しにして戦うことで岸本選手はさらに一皮むける。アーリーカップを制した後、「成功体験を踏まえて前に進めるのはすごく良いことです。これからも1日1日良くなっていく集団であり続けたい」と意欲を見せ、今シーズンは今後の成長を占うターニングポイントになりそうだ。
大きく選手が入れ替わった琉球だが、会場を埋め尽くすファンの存在は今も昔も変わらず、最強の戦力である。富山戦はホームゲームだったが、アーリーカップは大阪で開催されながらも、多くのファンが集まり歓声を上げた。
その後押しを初めて経験した佐々ヘッドコーチは、「試合中はすごい楽しいです。やっぱり勢いに乗らせてくれますし、ポジティブな声しか聞こえてこないです」と感想を述べる。この声援に応えるためにも「勝ちにこだわっていきたい」と力を込めた。
日本代表や強豪クラブにいた選手を揃えたが、経験値の浅いヘッドコーチと選手たちはまだまだ原石でしかない。名は体を表す通り、それぞれがゴールドに輝いた時、自ずと頂点に立っているはずだ。
文・写真 泉 誠一