この時期、Bリーグのチームはどこも9月29日の開幕に向けて、チーム作りに余念がない。それは取材に訪れた名古屋ダイヤモンドドルフィンズも同じである。この日もチーム練習終わりに一部の選手が自主練習に励んでいた。
一足先に練習を切り上げた選手たちはコートの外でクールダウンをしながら、和気あいあいとしている。チーム広報の松本麻里が言う。「今年は明るい感じで練習ができています」。昨年が暗かった、というわけではない。ただシーズンが深まり、勝ち星が伸びなくなってくると、練習はもちろん、試合中もどこかに陰が漂っていた。
それが変わったのは昨年のチャンピオンシップに出場できず、今年こそはという思いが強いからなのだろう。自分たちが変わらなければ、チームも変わらない。そう思っているのかもしれない。
また大宮宏正、柏木真介が移籍してきたことも大きい。陽気な大宮は自主練習で藤永佳昭とじゃれ合っていたし、シーホース三河で優勝を何度も経験している柏木も、松本広報が「後輩たちの面倒見がよい」と言うように、若い選手とコミュニケーションを取るなど、すっかりチームに溶け込んでいた。そんな経験豊富で、しかもそれを言葉にして伝えられる2人が加入したことは、若い名古屋Dにとって大きなプラス要素である。
チームの現状はというと、今年からヘッドコーチに就任した梶山信吾が「今年は走らせてばかりいます」と教えてくれた。
「昨年などは選手たちを見ていて、体力が有り余っているなぁと。だからとにかく今年は走るバスケットをしています」
若い選手が多いチームだけに、その若さをいかに武器するか。新米ヘッドコーチがトランジションバスケットに目を向けたのは、自然なことだと言っていい。
その分練習はキツイ。ベテランの柏木などは「3カ月前に生まれた娘が唯一の癒しですよ。娘がいなければ、もう廃人状態ですね」とウソともホンキとも思えるような言葉を吐露する。しかし一方で「でも走ってばかりなので、これまでのシーズン前と違って、体も絞れているし、軽いんですよね」と明るく切り返す。見事なまでの感情のトランジション。それだけ体も順調に仕上がっているのだろう。笹山貴哉、藤永といった生きのいいPGもいるだけに、彼がどうバックアップするのか、はたまた、若手を抑えて自らが率先してコートに立つのか。楽しみにしたい。
別室でおこなわれていた、ファンクラブ向けの動画撮影から帰ってきた張本天傑には9月1日から始まる「東海北陸アーリーカップ」について聞いてみる。
「まずは新しくなったチームのシステムがどれだけ通用するのかを試したいと思っています。自分としては合流してまだ3日目なので、チームメイトとコミュニケーションを取りながら、チームのシステムに溶け込むことが大事かなと」
そうか、張本は日本代表としてレバノンでおこなわれたアジアカップに出場していたのか。その間、チームは梶山HCが考える新しいシステムで大学生などと練習試合をしていたそうだが、張本はそれができていない。アーリーカップまでの1週間でも練習試合の予定はない。彼にとってはアーリーカップでチームのシステムを掴み、そのなかで自分がどう生きるのかを考えなければならないわけである。
「もちろん試合である以上、勝ちにこだわってやっていきますし、チームとしてもこういうカップ戦があることは悪いことではないと思います」
松本広報によれば「東海北陸アーリーカップ」のチケットはまだ完売していないらしい。会場は新潟市東総合スポーツセンター(9月1日、2日)と、シティホールプラザ アオーレ長岡(9月3日)。観客が集まれば集まるほど、選手たちはアドレナリンをより多く分泌して、よりハッスルしたプレイを見せるはずだ。それがシーズン開幕に向けた、より実戦に近い形での試合勘の会得にもつながる。
昨年、西地区の4位に沈んだ名古屋Dがどんな走りでBリーグ2年目のシーズン、中地区を駆け抜けるのか。まずは「東海北陸アーリーカップ」で“走るイルカ”の群れを見てみよう!
弊誌Vol.13(B.LEAGUE開幕号/9月末発行予定)にて、さらなる張本天傑選手インタビューを掲載
文・写真 三上 太