Bリーグの初代ファイナリストが決定した。川崎ブレイブサンダースと栃木ブレックスである。ともにチャンピオンシップのセミファイナルを第3戦まで戦い、それぞれの対戦相手、アルバルク東京とシーホース三河を退けてのファイナル進出となった。
川崎のニック・ファジーカスは5月20日におこなわれた第2戦、それを決めればほぼ勝利を手中に収められるフリースローを得た。残り23秒、2点リードの場面である。2本決めれば4点差、1本でも3点差となる大事なシュートだ。しかしファジーカスはそのフリースローを2本とも外し、そこから反転、残り13秒でアルバルク東京のジェフ・エアーズに3ポイントシュートを沈められた。逆転負けである。対戦成績を1勝1敗とした両チームは、そうしてファイナル進出をかけた第3戦へともつれこんだわけだ――。
遡ること2か月前。本誌の取材で川崎の練習コートに訪れたとき、ファジーカスは練習後の個人練習に約1時間をかけていた。締めはフリースロー。「久々だ」という50本連続でのそれを決めて、練習を切り上げた(ということは本誌にも書いたとおり)。
そんな選手でも、やはり試合を決めるフリースローは、いつもと同じメンタルでは打てないのだろうか。いや、それ以上にタフなゲームで、体力的に苦しかったのだろうか。そんなことを思いながら、前後半各5分の第3戦に臨むと、ファジーカスはやはりファジーカスだった。10分間で12得点。テレビの解説者がやたらと「ファジーカスが本気になりましたよ」と繰り返すので、いやいや、いつでも本気だろう、とテレビに向かって毒づきながら、しかし第3戦で見せた彼の集中力はやはり本物だろうな、解説者の言わんとすることも、あながちわからなくもないと思っていた。
そんなとき、ふと、誌面の都合上、割愛せざるを得なかったことを思い出した。それはニック・ファジーカスが“賢い選手”だということだ。本人も「ある程度の賢さはあると思います」と認めている。
どういうことか。
本誌8号のテーマでもある「3ポイントシュート」についてインタビューをおこなったとき、彼の口からダーク・ノビツキーの名前が出てきた。38歳の今なおNBAのコートで活躍するドイツ人プレーヤーで、リーグ史上最も優れたオールラウンダーの1人でもある。
ファジーカスはネバダ大学リノ校を卒業した後、2シーズンだけだがNBAでプレーしている。ドラフト2巡目に彼を指名したのがノビツキーを擁するマーベリックスだった。そのころすでにノビツキーはチームの看板選手であり、“7フッター(213センチ)”でありながら、3ポイントシュートも得意とする彼がいたからこそ、210センチのファジーカスもマーベリックスで3ポイントシュートを打つことができたと言うのだ。
「一緒に練習をしたり、トレーニングもしました。彼は間違いなく殿堂入りするでしょう。NBAの歴史のなかでもトップクラスの選手なので、ボクも彼のプレーを見て、真似しようとしてきたし、いまだに彼のプレーをテレビで見て、彼のようにプレーしようとしていますね」
3ポイントシュートだけでなく、ファジーカスのフェイドアウェイシュートもまた、ノビツキーのそれを参考にしている。2メートルを超えた選手がディフェンスとの間合いを広げながらシュートを放てば、そう簡単にブロックできるものではない。
そこにはノビツキーも、ファジーカスも、多くのNBA選手と比較したときに「自分は運動能力が高くない」という、受け入れなければならない事実が厳然と横たわっている。それを乗り越えるために何をしなければいけないかを考え、努力ができるからこそ、2人は今も――場所は違えど――コートの上で活躍し続けられているのだ。
「たとえばディフェンスが守りにくいようなスキルを磨けば、ディフェンスはこちらの動きを読むことができません。逆に言えば、ディフェンスが読めないような、常にいろんなシュートやスキルの練習をしているんです」
裏を返せば、自分がディフェンスの動きや心理を読むことでもある。ファジーカスはこうも言っている。
「ボクはディフェンスが打たせてくれるシュートではなく、こちらから積極的にディフェンスをさせるシュートを打ちにいくんです。ディフェンスがどんな守り方をしていても、自分が先に状況を作って、ディフェンスが自分に合わせるように仕向けているわけです」
「3ポイントシュート」は、もちろん3ポイントラインの外からシュートを決めるものだが、同じ3ポイントを獲得するシュートは、それだけではない。バスケットカウントで2点を奪い、さらにフリースローを沈めれば、それもまた大きな意味で「3ポイントシュート」となる。
自分から仕掛けることで、ディフェンスの動きを読み、バスケットカウントでの3ポイントを量産するのもファジーカスの強みだ。
「ディフェンスがいつフェイントにひっかかるか、またいつ飛ぶかが、だいたいわかっているんです。だからディフェンスが先に動く前に自分から動いて、ディフェンスがバランスを崩したところに、自分とのコンタクトがあって、シュートを打つからバスケットカウントにつながっているんです。ディフェンスよリも先に自分が動く、という感覚ですね」
賢い! 賢いが簡単にできることではない。そこがファジーカスの“うまさ”であり、努力の結晶なのだろう。
ファジーカスの賢さは、むろんノビツキーだけを参考にしているのではない。アンソニー・デイビス(ニューオリオンズ・ペリカンズ)のシュートや、ザック・ランドルフ(メンフィス・グリズリーズ)のペイントエリア内での動きも真似している。
「今もいろんな選手の動きを見ているよ。いろんな選手を見て、学ばないと、選手として成長しないと思っています。ボクがNBAに入った頃、運動能力が高くなかったから、自分は賢いプレーをしないと、絶対に長くプレーできないとわかっていました。ボクはいろんな角度からシュートを打っていますが、そのとき自分がコートのどの位置にいて、どういうシュートを打つべきか――それはバックボードを使うか、使わないかといったことも含めて、常に考えながらプレーしています。そういう意味でもある程度の賢さはあると思います」
Bリーグ・チャンピオンシップのセミファイナル第2戦、自らのフリースロー失敗で勝利を逃した後、わずか15分のインターバルでファジーカスは息を整え、落ち込みそうなメンタルを奮い立たせ、そして思考を整理した。逆転勝利に沸き、一気呵成の相手に対して、どのように得点を取っていくかを改めて考えたのだ。それが第3戦の12得点という爆発的な結果に結びついたのだろう。
アスリートであれば、運動能力が高いに越したことはない。しかし運動能力がさほど高くなくても、アスリートとして生きる道は十分にある。高さやフィジカル、スキルだけではない、ファジーカスの賢さを、もう1試合、存分に楽しみたい。
Bリーグ・チャンピオンシップ2016-2017ファイナル
川崎ブレイブサンダースvs.栃木ブレックス
2017年5月27日 15:10~
国立代々木競技場第一体育館
文・写真 三上 太