3月18日、19日に行われたサンロッカーズ渋谷対アルバルク東京の『渋谷ダービー』は、両日ともに4000人を超すファンが詰めかけ、会場となった青山学院大体育館は汗ばむほどの熱気に包まれた。1戦目は63-95と大差で敗れた渋谷だったが、2戦目は出だしから激しいディフェンスでペースをつかみ、1点を争う白熱戦を展開した。結果的には残り1秒で放ったディアンテ・ギャレット(Aアルバルク)の外角シュートが勝敗を分ける(64-66)ことになったが、敗戦後、会見場に現れた広瀬健太には気落ちした様子はなく前向きなことばが目立った。
「うちがアルバルクに勝つためには、ハードなディフェンスが必要。昨日の試合でルーズになっていたその部分を修正して、今日は個々の選手がそれぞれ自分のマークマンにプレッシャーをかけられたと思います。ディフェンスが機能したことによってブレークも出たし、自分たちのペースをつかむこともできた。最終的に勝てなかったことは悔しいですが、それでも昨日の大敗から修正できた点があったのは良かったと思っています」
2日間に渡り大勢のファンが観戦に来てくれたことで「アドレナリンが出てモチベーションが上がった」と言う。それだけに観客を満足させる試合をしたいという気持ちも強かったが「昨日の試合を初めて見たお客さんはもう一度見に来たいとは思わなかったかもしれません。自分たちはそういう試合をしてしまった。でも、今日は自分たちの『熱』を少しは伝えられたような気がします」それはこれから戦う上でのプラス材料だとも思う。
「今日の試合を初めて見たお客さんがまたバスケットを見たい、サンロッカーズを応援したいと思ってくれたらうれしいです」
広瀬が休部したパナソニックから日立サンロッカーズに移籍したのは2013年。即戦力として期待されたが、チームとして『勝てない時代』の苦しさも味わった。長年チームを支えた竹内譲次の移籍、酒井泰滋の引退、ベテランガード木下博之の移籍などでメンバーが変動した今季はBT・テーブスヘッドコーチを迎え、新たなチームとしてスタートを切った。その中で広瀬は名実ともに渋谷を引っ張る役割を担う。この日もマッチアップしたA東京のエース田中大貴を執拗にマークし、攻めては思い切りのいい3ポイントシュート、スティールからのワンマン速攻などでチームを勢いづかせた。
「やはり田中とギャレットはアルバルクの起点となる選手なのでそこを崩さなくてはいけない。昨日はドライブを警戒してディフェンスが下がり気味になってしまいましたが、今日はボールを運んで来るところからプレッシャーをかけて1つでもパスを出すタイミングを遅らせることができた。それが出だしのいい流れにつながったと思います」
だが、それはまだ小さな満足。
「今日見せた自分たちのプレーはこのチームの最低ラインだと思っています。まずはそれを継続していくこと。そこからさらに上がっていかなければなりません」
決勝点となったギャレットのシュートについては「最後のあの1本がフォーカスされがちですが、本当はそうじゃなくて、最後の1本のシュートが入るか入らないかで勝敗が決まる展開にもっていかれたことが問題なのだと思っています。敗因はそれまでの流れにあるわけで、そういう意味ではもう一度40分間を見返す必要があります」と、冷静に振り返った。
渋谷の現在地は22勝21敗で中地区3位。チャンピオンシップ出場のためには2位へのランクアップが不可欠だが、三遠ネオフェニックスに星三つリードされている状況だ。熾烈なワイルドカード争いを視野に入れても「もう1つも負けられない」ことに変わりはない。その気持ちを前面に出し、コートを走るのは自分の役目だと考えている。
「このチームにエネルギーを与えるためにはどういうプレーをしなくてはならないのかということは常に頭にあります」
ディフェンスもオフェンスも絶対にさぼらない。先頭を切って走り、ゴール下ではためらうことなく身体を張る。
「正直、すごく疲れますし、身体もあちこちぶつけて痛いところがどんどん増えていくんですけど、今のこのチームはそうやっていかないと正直、上に上がってはいけないと思うので、激しいプレーも負けないよう意識してやっています」
もともと強いフィジカルと泥臭いプレーには定評がある。
「それが自分の持ち味でもありますが、粘り強く、あきらめずといった単純なことが大事であり、そこは自分が率先してやるべきことだと思っています。それが少しずつチームに浸透していけばいいなと…」
チャンピオンシップまでの道のりを考えたとき、「厳しい状況にあることは承知している」と言いながらも、同時に「可能性は十分にある」と信じている。
「チーム力が徐々に上がっている手応えを感じていますし、本当にこれからが勝負だと思っています」
まず連勝を狙うのは今週末(3月25日、26日)の三遠戦。2位浮上の望みを懸けた戦いとなるだけに「この2戦は何としてでも勝ち取りたいです」と、広瀬の口調にも熱がこもった。必勝を胸に敵地に乗り込む渋谷と、その渋谷を迎え討ちたい三遠、浜松アリーナで繰り広げられる熱戦に期待したい。
文・松原 貴実 写真・三上 太