昨シーズン、最も失点が少なかった宇都宮ブレックスは平均69.2点。アルバルク東京が平均70点で続く。いずれも8割台の勝率を誇り、リーグ順位も宇都宮が1位(51勝9敗:85%)、A東京が2位(48勝12敗:80%)。『守るが勝ち』を体現してきたチームから、A東京の “エースキラー” 小酒部泰暉がベストディフェンダーに輝いた。
神奈川県の西側、丹沢湖周辺にあるハイキングに適した山々に囲われた自然豊かな山北町で小酒部は育まれてきた。全国とは無縁の学生時代を過ごし、高校3年の最後の大会を終えた後、バスケを続けるかどうか悩んでいた。そんな原石に惚れ込んだのが、山北町から車で30分程度と近くにあった神奈川大学の幸嶋謙二監督である。
入学当時は関東大学バスケ2部リーグであり、入学金などが免除される特待枠もない。190cm台の選手もいない神奈川大学だったが、基本に忠実なプレーで勝ち星を重ね、1部昇格を決めた。同時に12年ぶりのインカレ出場を果たす。先輩たちの活躍で7位の好成績をおさめる。小酒部にとっても、はじめて全国の舞台を経験できた。1部リーグに昇格した翌年からエースとして小酒部は覚醒していった。環境が選手を変えた瞬間である。
チーム内では大きな187cmだった小酒部を、幸嶋監督はスモールフォワードとして起用し、さらなるポジションアップにも積極的に挑戦させた。初の1部リーグでは平均17.8点を挙げ、エースとしての重責を全うする。翌年、3年生になった小酒部は平均25点の活躍で、高校バスケでスポットライトを浴びてきた選手たちを押しのけてリーグ得点王に輝いた。3ポイントシュート成功本数は49本で4位。当時の上位を見れば1位・松脇圭志(土浦日大→日本大学/現・琉球ゴールデンキングス)、2位・納見悠仁(明成→青山学院大学/現・島根スサノオマジック)、3位・盛實海翔(能代工高→専修大学/現・レバンガ北海道)がオフェンシブなプレーヤーが名を連ね、小酒部もその一人だった。大学のシーズンを終えた2019年12月、特別指定選手としてA東京に加入。同時に神奈川大学バスケ部を退団し、大きな決断をする。
当時はルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチがA東京を率い、ディフェンスをベースとしたチーム作りを行っていた。ここでもまた環境が小酒部を変えた。徹底的に叩き込まれたディフェンス力を開花させる。デイニアス・アドマイティスヘッドコーチに代わっても、エースキラーとして頭角を現す。その成果がリーグ2位の失点数を誇るA東京のディフェンスに示されていた。
オフェンスは個の力でなんとかできるが、ディフェンスは違う。手を抜くことは許されず、5人中1人でも強度が下がればチームディフェンスは崩壊してしまう。A東京の強固なディフェンスの中心にいた小酒部をこの賞で称えたい。一方、平均5.5点のオフェンスは大学時代のモンスターっぷりを知る者としては物足りない。攻守揃ってバスケであり、オフェンスでの活躍も期待している。
文 泉誠一
写真 B.LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。
※受賞者の所属は2023-24シーズンに準ずる。