吉田亜沙美がアイシンで現役に復帰し、野町紗希子も東京羽田に移籍して現役続行となった2023-24シーズンは、Wリーグからもアイアンマン賞を選ぶ必要性を訴えていきたい所存だが、ビデオテープを20年くらい巻き戻すと、当時は男子でも35歳以上の現役選手は少なかった。トップリーグが1・2部合計で20チームに満たず、そもそもの分母が小さいせいもあるが、20年前に33歳だった現レバンガ北海道社長の同期は既に片手で数えられるほどしかいなかった。今に比べると選手のキャリアは長くなかったのである。裏を返せば、それだけ今はプロバスケットボール選手の価値が向上したということでもあろう。
だからといって、そのレバンガ社長がそこから15年以上も現役を続けたことはまた別次元の話。40歳以上で普通にプレーする選手が増えているのは彼の功績でもあるが、我々見る側の人間は感覚を狂わされてしまっている。体力がものを言うスポーツの世界で、40代が20代前半の若者と同じ土俵で戦うのがどれほど異常なことかということを、我々はどこかで思い出さねばならないわけで、アイアンマン賞を設けてその機会を作っているBBS AWARDのなんと良心的なことよ(自画自賛)。
前置きだけで500字を超えてしまったので、そろそろ本題に入ろう。レバンガ社長の元チームメートで、5月26日に40歳になった野口大介は、その6日前にB2ファイナルGAME1の舞台に立ち、19分23秒プレー。それも、ビハインドを背負った第4クォーター残り3分40秒からオーバータイム残り1分28秒までという、めちゃめちゃという表現でも足りないくらい重要な時間帯にコートにいたのである。
これは、長崎ヴェルカが昨シーズン後半から取り組んでいるビッグラインアップによるものだが、マット・ボンズのオールラウンド性がより生きる戦略であると同時に、野口の存在があるからできることでもある。1月8日の越谷アルファーズ戦では、野口とボンズに加えてジェフ・ギブス、ジョーダン・ヘディング、ウィタカケンタというビックリラインアップの時間帯もあった。練習でも一度も試したことがなかったそうだが、これで5点ビハインドから一時同点にまで持ち込めたのは、ハンドラーにもビッグセンターにもマッチアップした野口の対応力によるところも大きい。
2022-23シーズンの野口は57試合に出場。そのうち16試合がスターター起用で、1試合平均14.5分の出場も立派なものだが、これだけ出ていてターンオーバーが26個、つまり2試合に1個以下だったのも流石の一言に尽きる。残りの字数も少ないのでこの機に乗じて宣伝させてもらうと、昨年3月に書いた筆者の記事を読んでいただければ、野口のコート内外での貢献度の高さはご理解いただけるだろう。
移籍3シーズン目は、住み慣れたB1の舞台にカムバックする。チーム内で “パパ” と呼ばれる野口は、自身の地元・北海道で子育てに奮闘するまゆみ夫人(往年のファンにはお馴染み、船引姉妹の妹である)に加え、このオフにはハマのかあさん(森川正明)という新たな相棒を手に入れた。B1の世界を知らない選手も少なくない長崎を、アベックでどう導くのか。そんなキャラじゃないのは百も承知の上で、さだまさし並の関白ぶりにも期待してみたい。
文 吉川哲彦
写真 B.LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。
※選手・関係者の所属は2022-23シーズンに準ずる。