昨年、WリーグMIP(東京羽田・津村ゆり子)の表彰記事を執筆した際に、自身が書いた記事を引っ張り出したことがあった。今回も同様に自身の記事をとっかかりにすることを、まずはご了承いただきたい。ただ、今回は昨年と違い、記事の主人公は同じ人物である。
Bリーグが河村勇輝フィーバーに湧き、メディアも大々的に河村を取り扱う中、横浜ビー・コルセアーズの他の選手をメインにした記事はあまりなかった。Bリーグ7シーズン目にして初めて地区首位争いを演じていたにもかかわらずである。そんな中、男子は黒と相場が決まっていた時代に全校で唯一茶色のランドセルを背負っていたナチュラルボーン天邪鬼の筆者は、森井健太にスポットライトを当てた記事を書いた。河村が活躍すればするほど、森井を書かずにはいられなかったのである。
その記事に書いたように、森井がチームに良い影響を与えているのは明らかだった。河村をベンチに下げた時間帯にオフェンスが成立していたことが一つ。チームをまとめるキャプテンシーを備えていることが一つ。青木勇人ヘッドコーチの良き理解者であることが一つ。チャンピオンシップ進出経験の持ち主であることが一つ。これだけあれば、森井を取り上げない理由はない。記事の中にしれっと河村のコメントを忍ばせ、なんだかんだで河村人気にあやかっているのはこの際ツッコまないでおいてほしい。そして、その記事を書いた直後に河村がキャリアハイを連発したこともそっとしておいていただきたい。
その森井が、CSでは救世主となった。河村のコンディションが万全でない中、川崎ブレイブサンダースとのクォーターファイナルであれだけ3ポイントを決める姿は筆者も想像していなかった。謹んでお詫びを申し上げる。「自分が横浜をCSに連れていく」という言葉を現実のものとした上、そのCSで河村の代役以上の働き。BBS AWARDに際し、他チームのシックスマンには申し訳ないがこりゃ森井一択だろうと思いつつ、今のBリーグのレギュレーションを考えると、最低でも1人はベンチスタートになる外国籍選手の名前が何人も挙がるだろうなあと自信なさげに選考会議に諮ったところ、他の選考委員からも森井の名前が挙がり、筆者の予想以上にあっさりと決定した。森井恐るべし。
なお、本家のベストシックスマンは2シーズン連続でクリストファー・スミス(千葉ジェッツ)。今シーズンに至ってはベスト5にも選出されているが、これは藤井祐眞(川崎ブレイブサンダース)以来2人目であり、少なくとも今のBリーグではベスト5と同等の価値がベストシックスマンにあることを意味している。既に来シーズンの残留が決まっている森井も、竹田謙GMにこの記事を見せて査定の見直しを要求してもいい。
ところで、伊藤大樹アナリストのSNS投稿によると、セミファイナルでの敗退が決まった後、森井はベンチスタッフ数名に声をかけて「1週間お疲れ様食事会」を開いたそうだ。1年間ではなく1週間である。そんな天然さんがキャプテンとして、ビーコルを未体験のCSに連れていったなんて、実に素敵なストーリーではないか。来シーズンは河村と肩を並べるくらいメディアにも登場し、キャラも実力も世に知らしめてもらいたいものだ。
文 吉川哲彦
写真 B.LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。
※選手・関係者の所属は2022-23シーズンに準ずる。