文・松原 貴実 写真・安井 麻実
3月19日、20日に行われたトヨタ自動車アルバルク東京―アイシンシーホース三河の2連戦は第1戦を87-69、第2戦を84-64と、いずれもアイシン三河が快勝し対戦成績を4戦2勝2敗の五分とした。
3月13日の対リンク栃木ブレックス戦では前半10点リードしながら後半に逆転を許して1点差負け(73-74)、さらに17日の対東芝ブレイブサンダース神奈川戦では前半23点ものリードを奪いながら、後半、まさかの失速で72-74で敗れる試合を経験しただけに「仮にリードしたとしても油断することなく、自分たちのテンポで戦い抜くことが大事だと話しました。この2戦ではそれができていたと思います」(鈴木貴美一ヘッドコーチ)
とはいうものの現在のチーム状況は決して万全とは言えない。第1戦に約34分出場してチームハイの24得点をマークした金丸晃輔は足の故障から2戦目は欠場。ベテラン桜木ジェイアールも足に痛みを抱えての出場だった。「そんななか、加藤(寿一)君、長谷川(智也)君といった若手がよく頑張ってくれました」(鈴木ヘッドコーチ)
欠場したエース金丸に代わってスターティングメンバーとしてコートに立った加藤は今春法政大学を卒業したばかりのアーリーエントリー選手。先発出場は3回目となるが30分近いプレータイムはこの日が初めて。「自分が貢献できるところは何かを考えて、とにかく全力を出し切ることだけを考えていた」という。
「加藤君はハートが強い選手。度胸があるので相手がプレッシャーをかけてもあまりミスをしない。負けん気が強く、同時に非常にクレバーなので、これからの成長が楽しみです」と、鈴木ヘッドコーチが大きな期待を寄せる22歳に試合後、話を聞いた。
■「最初は不安だらけでした」
――まず今日の1戦を振り返って、感想を聞かせてください。
加藤:昨日の1戦目もそうなのですが、この2連戦はうちのディフェンスがすごくよかったと思います。リバウンドやルーズボールなど泥臭いプレーもみんなで頑張って、それが2連勝という結果につながったと思っています。
――スターティングメンバーとして出場することはいつ聞かされたのですか?
加藤:今日です。金丸さんの足の状態がよくないなので、今日は代わりにスタートで行くよ…と。昨日は2.1秒しか出てないんですけど(笑)。
――驚きましたか?
加藤:いえ、これまでもスタートで使っていただいたことはあるし、驚きはありませんでした。それより金丸さんが抜けた穴を自分が持っているものでどこまでカバーできるかということを考えていました。自分には金丸さんみたいなシュート力もないし、オフェンス能力もないし、そう考えると、今、自分がチームに貢献できるのはディフェンスを頑張ることしかないので、それだけはとにかく全力で頑張ろうと思ってコートに立ちました。前半は続けてターンオーバーをしてしまって、そこは反省すべきところですが、全体を通して自分なりに頑張れたのではないかと思っています。
――試合に出て経験を積むことで、気持ちにも余裕が生まれてきましたか?
加藤:いえ、余裕なんてまだまだ(笑)。昨年の夏に初めて練習に参加させてもらったとき、周りがあんまりすごい選手ばかりで、自分は本当にここでやっていけるのだろうかとすごく不安になりました。そのときはたった2日間だったんですけど不安しかありませんでした。今年になって1月17日から練習に参加するようになったんですが、ほんと、ついていくのがやっとで。それは、今も同じです。でも、逆に…と言ったら変ですが、すごい先輩ばかりだから学べることも多いんですね。だから、今は先輩たちからいろんなことを学んで、自分の中に吸収して、少しでも成長していきたいと思っています。
――そんななかでもスターティングメンバーに起用されたということは『期待されている』ことの証でもあると思います。
加藤:もし、今の僕に期待していただける点、評価していただける点があるとしたら、やはり泥臭いプレーを頑張るところだと思っています。そこしかありません(笑)。ディフェンスは上手い、下手というより、調子がいい、悪いというより、やるかやらないかです。やろうと思ったら誰でもできることであり、それはプロでも大学生でも高校生でも同じです。それをどこまで徹底して全力を尽くせるかということです。だから、コートに出たらそれだけはやり抜きたいですね。金丸さんがケガをしたからチャンスをもらえるのではなく、金丸さんが万全のときでもプレータイムをもらえるようになることがこれからの目標でもあります。ちょっとでも主力の人を休ませることができるよう、そういう部分でチームに貢献できるようになりたいです。
――コートの外での生活はいかがでしょう。加藤選手は横浜生まれの横浜育ちですが、その横浜を離れての生活にはもう慣れましたか?
加藤:1人暮らしは人生初めてで、親元を離れたのも初めてで、最初はいろいろ慣れないこともありましたが、同期の船生(誠也)もいるし、先輩たちも優しいし、楽しい刈谷生活を送っています(笑)
――先輩たちはみんな優しいのですか?
加藤:みんな優しいです(笑)。ほっんとに優しいです!自分で言うのもなんですが、すごく可愛がられていますね(笑)だから、そんな先輩たちのためにも早く一人前になるというか、もっとチームに貢献できる選手になりたいと思っています。
レギュラーシーズンもいよいよ終盤に差し掛かった。
「上位チームの戦い方を見ると、どこが優勝してもおかしくないし、うちにもチャンスは十分あると思っています。そのためにはここから上げていかないと」(鈴木ヘッドコーチ)
3月20日現在、4位につけるアイシン三河が残る試合でどんな戦いを見せるのか、「プレータイムをもらったら、自分にできる全ての力を出し切ります。出し切ってチームに貢献します」――最後に口にした加藤の言葉は頼もしかった。