開幕から5ヶ月が経過し、41試合を終えた富山グラウジーズは9勝しか挙げられていなかった。しかし、その9勝目は東地区の首位争いをしていた栃木ブレックスから奪った大金星。そこから富山に変化が見られ始めた。
直近2ヶ月間は勝率5割の富山──強いのか?弱いのか?
3月から4月30日のサンロッカーズ渋谷戦までは8勝8敗。それまで2割そこそこの勝率だったクラブが、直近2ヶ月間は5割をキープしているのだ。取材を行った4月29日のSR渋谷戦、最後はひっくり返されて敗れはしたが、4クォーター途中までは最大13点差までリードを拡げていた。
点差を拡げた時間帯は水戸健史選手、岡田優選手、宇都直輝選手、または田中健介選手らバックガード陣が思い切り良く走り、速い展開から得点を荒稼ぎしていった。
「良いときは本当にディフェンスからブレイクを出して走ることができ、ダメでもトレーラーがつないでセットオフェンスで得点につなげられます。良いディフェンスができていたのがウチの強みであり、3クォーターは良いバスケットができていました」
しかし最後はSR渋谷に追い上げられ、逆転を許して敗れてしまった。「4クォーターの途中までは本当に良いバスケットができていました。残り5分を切ってから、イージーなリバウンドであったり、ワイドオープンを作られたり、集中してディフェンスしなければいけない時間帯にミスが出てしまい、相手に決められてしまいました。最後に集中できなかったのが敗因」として挙げている。
勝率5割が物語るのと同じように、40分間の中でのプレーでも明暗が出た富山は強いのか、弱いのか?まだハッキリはしない。だが、確実に変化は見られる。その要因を水戸選手に挙げてもらった。
「シーズン中に選手とコーチの入れ替えがありましたが、その中でもディフェンスのルールをしっかり作っていました。これまではピック&ロールで崩される場面が多かったですが、そこに対してルールを作ってしっかり守ることで、相手にプレッシャーをかけていくことが共通理解としてできるようになってきました。それが、失点が減った要因だと思います」
下地アシスタントコーチの加入で練習から変化
明らかにチームが上向き始めた3月、5年ぶりに下地一明氏がアシスタントコーチとして戻って来たのも大きな要因だと感じている。今シーズンはbjリーグを代表する点取屋の岡田選手が移籍し、最下位脱出の救世主として2010年にマイアミヒートにドラフトされた元NBA選手のデクスター・ピットマンが加入。昨シーズンのbjリーグファイナリストであり、そのタレントは申し分ない。しっかりとした練習さえできれば、すぐにチームが生まれ変われることは想定内だった。そこに下地アシスタントコーチが加入したことでしっかりとした下地(したじ)ができた。
「どう守るかというルールがこれまでは曖昧でした。そのルールを決めて動けるようになってきました。基本的なことですが、今は練習から徹底できるようになってきています」
そもそも攻撃回数が多い富山は平均73.3回を誇り、Bリーグで2番目に多い(1位は琉球ゴールデンキングスの73.7回)。
「攻撃回数だけは本当に多いですが、無理なシュートもたくさんあります。オフェンスでは75〜80点を獲るだけの力はあると思っていますし、全員が得点を獲れる選手です。今まではどうやってディフェンスをするかが課題でした。それが3月から少しずつ安定してきたことが勝利につながっているのだと思います」
オフェンス力は申し分ない。攻撃回数が多いということは、裏を返せばしっかりと守れていることにつながる。足りなかったのは、精度の問題だけだった。共通認識ができたことで練習の質も高まり、徐々にゲームでも本領を発揮し始めている。
今は残留プレーオフ圏内に足を突っ込む富山だが、シーズン終盤のここに来てようやく上向き始めている。アウェーにも多くやって来る赤い声援を送るファンは、悲観することはない。水戸選手もしっかりと手応えを感じている。
「最近は川崎(ブレイブサンダース)に勝ったり、SR渋谷とも1勝1敗と上位チームに勝つ試合もできています。みんなが少しずつ自信を持ってプレーしていますし、そんなに引けを取ってもいない。全員が自信を持って戦えば良い結果につながっていくはずです」
これまでの敗因は選手のパフォーマンスだけではない。66-71で敗れた4月23日の三遠ネオフェニックス戦も、この日と同じように残り5分で逆転されており、勝ち切るためには選手交代やタイムアウトのタイミングなど、ベンチワークでも改善する余地はあるだろう。敗れた後、ボブ・ナッシュヘッドコーチは、「自分にも責任はある」と話していた。翌日はSR渋谷にリベンジを果たし、再び3月以降の勝率を5割に戻している。
5月3日は中地区王者の川崎を相手に、富山の現在地をうかがい知ることができる。週末のラストゲームは現在2位の三遠戦。先々週に勝利を挙げたことで自信を持って臨めると同時に、最後の最後にまくられた悔しさを糧に、連勝を目指してもらいたい。本来の力を隠すことなく出せれば、自ずとB1に残留できているはずだ。
文・泉 誠一 写真・安井麻実