これからのキャリアは家族のそばで築いていく
正直なことを言えば、岡田優介の『キャリアの延長戦』をもう少し見ていたかった気がする。香川ファイブアローズの2部復帰の立役者となる姿にも期待していた。おそらく香川のファンの多くも同じ気持ちだろう。
「香川では当初2年間プレーするつもりでした。それを1年早めたのは千葉に住む家族と暮らす時間を大事にしたいと思ったからです。僕には6歳の息子と3歳の娘がいます。自閉スペクトラム症、重度知的障害と診断されている息子のことは以前から僕のインスタグラムなどでも紹介してきましたからご存知の方も多いかもしれませんね。僕が香川でプレーするため単身赴任を選んだ理由の1つには、息子に適応する施設が香川で見つからなかったというのがあります。彼には僕が束の間の休日を千葉の家で過ごし、また香川に戻ることの意味がわかっていないので、今までも別れに対して特別な感情を見せることはありませんでした。でも、娘は違います。成長するにつれ『パパ、行かないで、行っちゃいやだ』と、本当に悲しそうに泣くようになりました。離れて暮らすことが娘の心に及ぼす影響について考えるようになったのはそのころからです。すると自分の中に焦りが生まれたんですね。あと1年香川でプレーすることで日々成長していく子どもの姿を見逃してしまうのではないかという焦りです。幸い香川ではシューターとしての存在感をある程度示すことができました。さらに欲張ってあと1年(の現役の生活を)続けても、引き換えに失うものが大きいんじゃないか。そう思ったとき、引退する決心がつきました。ずっと支えてきてくれた妻の負担を少しでも軽くできるよう家族のそばで暮らそう。家族のそばでセカンドキャリアを築いていこうと心が決まったんです」
4月20日、多くのファンを集めて開催された引退セレモニーには2人の子どもたちも登場。慣れない舞台の上で落ち着かない2人を交互に抱き上げ、そっと声をかけるパパの姿は微笑ましく、場内は温かな空気に包まれた。
設置された大型ビジョンには岡田のこれまでの功績が映し出され、続いてバスケットを通じて交友を深めた人たち、同じコートで汗を流してきたたくさんの選手たちからのビデオメッセージが流れる。その1つひとつに頬を緩め、小さくうなずく岡田から伝わって来たのは18年分の感謝だったように思う。