選手寿命が長くなった日本のリーグでも、15シーズンプレーできる選手はそれほど多くはない。それが外国籍選手となれば、唯一無二と言ってもいいだろう。ジェフ・ギブスは、そんな唯一無二というフレーズが相応しい選手だった。
188cmのセンターがドイツ時代も含めて21シーズンもプロとしてプレーできた理由は、212cmという驚異のウィングスパン、楽々とダンクする身体能力、あの胸板に象徴される屈強なフィジカル、ドリブルもアウトサイドシュートも器用にこなすスキル、的確な状況判断ができる経験値とバスケットIQ、勝負に対する執念、そしてバスケットへの愛着。宇都宮ブレックスで5シーズン共闘した安齋竜三ヘッドコーチが越谷アルファーズに呼び寄せたのも、44歳という年齢でそれらが全くと言っていいほど失われていなかったからだ。
開幕前に引退を公言して臨んだシーズンは、チームの勝率・順位という点では必ずしも芳しいものではなく、ギブス個人も、目標としていた全試合出場はならなかった。しかし、現役生活最後の試合は古巣・宇都宮と戦うことができ、日本で最も長くチームメートだった竹内公輔との1on1でダンクを決めて締めくくることもできた。これについて、本人は「あの場面でシュートにいくつもりはなかった」と振り返る。
「ボールを持っても、そのままブザーが鳴るのを待って終わろうと思っていたんですが、公輔が手を叩きながら腰を落としてディフェンスの体勢に入ったので、『やるか』とスイッチが入りました。練習で彼と1on1をやるときに、違う方向を見ながらクロスオーバーで抜いてダンクというのをいつもやっていたので、あのときもそれをやったらいつも通りに抜けました(笑)。
あの場面はファンの皆さんがいろんな角度から撮ってくれていて、それはSNSで全部見させてもらいました。ブレックスのベンチも盛り上がってくれているのが映っていたし、その瞬間を見ることができて良かったです」
それから6日後の5月10日、越谷は2日間にわたるファン感謝イベントの一つとして「Thank you for GIBBS」と銘打った引退セレモニーを開催。お笑い芸人・田村裕(麒麟)をゲストMCに迎えたトークショーやアルファメイトとの記念撮影会、古巣の仲間たちからのビデオメッセージなどでギブスを送り出した。ちなみに、ビデオメッセージに登場したアルバルク東京・李載勲通訳によれば、「本当はシューズを履いて186cm」ということである。
「ああやってファンの皆さんやチームメートが感謝と愛情を見せてくれたことが嬉しかったですし、元チームメートからのビデオメッセージを見たときは感情が高ぶって、ちょっと涙ぐんでしまったかな。家族もそこに登場してくれましたし、ありがたかったです。越谷のホームゲームは本当に最高の雰囲気で、地域の愛を感じ取れる空間でした。皆さんの前でプレーできて良かったですし、どこに行っても、勝っても負けても常に応援してくれる姿勢が嬉しかったです」