ペイントエリア内で頭ひとつ抜きん出ているターゲットにパスを放り込めば得点を決めてくれた。まわりを生かすパスも上手く、一緒にプレーするのは快適だった。どんな状況でも打開し、勝利へ導いてきた川崎ブレイブサンダースにとって不動の大黒柱は、12シーズンの激闘を終えて引退。永久欠番となった#22は今、天井から仲間たちを見守っている。
14シーズン目に突入した川崎の顔である篠山竜青は、「やっぱりニック(ファジーカス)っていう大黒柱がいて、ニックができないところを補える20代後半〜30代前半の脂の乗り切ったサポートキャストという意味で、これまでの川崎は外国籍選手や日本人選手を連れてきていました」とチーム構成の中心にいたのも#22だった。大黒柱が抜け、変化が求められる新シーズン。前身の東芝時代から、OBが指揮を執ってきた。しかし、佐藤賢次ヘッドコーチは退任し、ドイツMHP RIESEN Ludwigsburgで元千葉ジェッツのジョン・パトリックヘッドコーチの右腕として活躍中。チェコ代表を率いて2019年ワールドカップで日本代表とも対戦した経験のあるロネン・ギンズブルグヘッドコーチを新たに迎えた。
はじめて指揮を執るBリーグの特徴などを把握している段階であり、「選手とはお互い学べることがあり、しっかりとコミュニケーションを取ってすり合わせしている。昨シーズンまではファジーカス選手という絶対的なアドバンテージがある中で、長い間そのスタイルのバスケをしてきた。しかし、今シーズンはそのアドバンテージがなくなり、また違ったバスケスタイルをしていかなければならない」とゼロからスタートする大きな変化に立ち向かう。ゆえに、今シーズンは「BE BRAVE 変化に常に勇敢であれ」とスローガンを掲げた。
長年在籍する選手が多く、チームカラーやルールを熟知し、阿吽の呼吸でうまくまわってきた。そんな居心地の良い川崎にとって、成長を促すためにもコンフォートゾーンから抜け出すことが求められる。今シーズンは5人が新たに加わり、移籍や引退により6人が去った。開幕から6戦を終え、2勝4敗(10月20日現在)。直近の神奈川ダービーは、横浜ビー・コルセアーズとの初戦に敗れて4連敗。翌日は延長の末に辛うじて勝利をつかんだが、「そんな簡単に勝てるわけがない」と北卓也GMは腹を括り、先頭に立って変化の旗を降る。
刷新したチームは、ボールがうまくつながらないミスが目に余る。ギンズブルグヘッドコーチも、「ターンオーバーはシーズン序盤からずっと課題にしており、その多さが敗因のひとつでもある。ボールを触る機会が多いガードだけではなく他のポジションも合わせ、全体的に多いことが今の課題であり、チームとして減らしていこうと常に話している」とチームケミストリー構築には時間を要する。ディフェンスでも見合ってしまい、「トランジションについてはもう毎試合課題となっている部分であり、オフェンスリバウンドに行けないならば、まずは戻ることを徹底しています」とディフェンスのスペシャリストである長谷川技も課題を挙げ、まだ本領を発揮できていない。「この表現が合っているかは分からないですが……」と前置きした篠山も、もどかしさを感じていた。
「外国籍選手たちはオフェンスでスタッツを残して結果を残せる期待値があって、ここまでキャリアを積んできたので、ディフェンスが得意か苦手かと言えば、たぶん苦手の方に属している選手が多いと思います。今シーズンは新しいメンバー編成となり、日本人もまだまだ経験が足りない選手ばかり。本当にみんなが意識を変えてネノさん(※ギンズブルグヘッドコーチ)が求めている強度やずるがしこさなどを突き詰めていかなければいけない。でも、リバウンドやルーズボールは気持ちの部分だと思っているので、そこで負けることが本当に悔しいです。(戦術やチームケミストリーなど)時間がかかる部分とは違い、ルーズボールやボックスアウトは意識を変えればすぐにスイッチも変えられる。そこはみんなで声を掛け合ってやれるかどうかが、今は問われている。川崎のアイデンティティとして、泥臭くプレーすることは見つめ直していきたいです」