B3、B2をともに1シーズンで通過し、今シーズンからB1に所属している長崎ヴェルカは、そのB1の舞台でもサプライズチームになろうとしている。昨シーズン準優勝の千葉ジェッツを開幕節で連破したのを皮切りに、島根スサノオマジックや川崎ブレイブサンダースといった上位進出の実績があるチームも破り、激戦区の様相を呈する西地区でシーズン序盤は上位につけた。
これまでにも積極的な選手補強をしてきた長崎は、今シーズンも開幕直前になってファン・ブースターを驚かせる発表をした。今夏のワールドカップで躍進した日本代表の主力、馬場雄大との契約である。選手契約枠がまだ残っていた中、「馬場雄大も頭の片隅にはあった」という伊藤拓摩代表兼GMは、馬場獲得に踏み切った際の一連の流れについて、以下のように語る。
「もともとテキサス・レジェンズからの仲なので、ワールドカップが終わったタイミングでまずは『お疲れさん、おめでとう』というLINEを送って、その何日か後になって『進路はどうするの?』という話をしました。そこで彼が『日本も考えてます』ということだったので、ヴェルカとしてもアプローチしたいということを伝えました」
この時点では、馬場の元にも既にいくつかのチームからオファーは届いていたらしく、伊藤代表兼GMも当初はあまり手応えがなかったということだ。そのため、まずは長崎ヴェルカがどういうクラブであるかを知ってもらうところから始まった。
「僕との関係性はあるものの、彼もそれで決めるわけではもちろんないですし、彼はパリ五輪に向けて活躍する、そしてNBAに行くという目標がはっきりしていて、そこから逆算してこの1年間をどう過ごすかというところだったわけです。その中で海外なのか日本なのか、日本であればどのチームが一番成長できるかということを彼は考えていたので、これは本人に聞かないとわからないですが、B2からB1に上がったばかりのヴェルカは最初の段階ではそこまでオプションになかったんじゃないかと思います。
ただ、『一度長崎に来てください』いうことで招待して、そこで長崎ヴェルカをプレゼンして、ヴェルカのことも知ってもらえたと思いますし、彼が成長できる環境だということは説明できたかなと思います」
同じく補強という点で、荒谷裕秀にも触れておきたい。ガードの層が厚い宇都宮ブレックスではほぼウィングに固定された起用だったが、長崎ではハンドラーとしての素質を見出され、生き生きとプレーしている印象がある。「他のチームでフィットしなくても、ヴェルカなら生きるという選手はいる」という伊藤代表兼GMが荒谷に目をつけたのは、チームにとっても本人にとってもプラスとなった。
「補強ポイントについてHCの前田(健滋朗)と話す中で、誰にガードを任せるかというよりは、誰がボールハンドラーとしてプレーできるかということを考えました。ヴェルカはポジションレスなので、ポイントガードとして獲ったというよりも、クリエイトできる選手、ピック&ロールができる選手、トランジションで生きる選手をメインで考えた結果、荒谷になりました。ピュアなポイントガードが狩俣(昌也)と小針(幸也)しかいない中、彼を獲った段階でもまだ他のガードの選手を獲る可能性はありましたが、ポイントガードが絶対に3人いないといけないというバスケットでもないですし、ディフェンスでも全部スイッチで守れるのがヴェルカスタイルなので、彼を獲ることができたのも確立されたスタイルを持つ強みだと思います」