一本の矢は簡単に折れてしまうが、三本束ねれば折るのは難しい。
集団が互いに協力する重要性を説く、有名な例え話だ。
バスケットボールにおいても、チーム全員が力を合わせて戦う姿勢は不可欠とされており、試合の勝敗を決する要因として語られることも多い。
敗戦の弁でよく聞かれるフレーズといえば、「自分たちのバスケットができなかった」、「それぞれがバラバラにプレーしていた」、などの連帯が欠けた内容を悔やむ向きが多い。
だが、行きすぎた結束がチームの枷となるケースについては、あまり語られない。
「チームとして意図していることの反対を考えて、アプローチしてみるっていうのは意識してやっているところです。」
西地区での優勝を決め、リーグ全体でも勝率一位の成績を誇る琉球ゴールデンキングス 。
その『六人目』としてチームに大きな影響力をもたらす岸本隆一は、自身のタスクについてこう語った。
「例えば今、試合を通してボールが回ってないなと思ったら反対のことをしようかなっていう立ち位置なんです、僕は。逆にボールは回ってるんだけど点数につながっていないんだったら、ボールを止めて、いわゆるノーゲーム(※)っていうんですかね。バスケット経験者から見ればいい攻めではないように見えることもやっていく。そこは自分なりにバランスを取っているつもりです。
キングスって真面目なチームというか、いい意味で方向性がみんな一緒なので、これをやるぞってなったときに、そればっかりになりがちかなっていうのはたまに思ったりしてました。そういうときにちょっと、『今日、こんな感じもアリじゃない?』みたいな雰囲気が出せるようにっていうのが自分の役割かなとは思っていますね。」
※ノーゲーム……セットプレーなどのようにチームがあらかじめ示し合わせたオフェンスではない、個人の力量に依存した攻め方。フリーオフェンス。
本来であれば、競争が発生する環境において判断がばらつくことは歓迎されるべきだ。
競争の現場では、最高の判断を下した存在が勝利を収める。
だが最高の判断の中身は、一定ではない。
もし仮に、試合で勝つための絶対唯一な方法があって、誰もがその不動の正解を目指したならば、戦力の一番充実したチームが常に他を圧倒する、ある意味ではとてもつまらない世界になるだろう。
しかし予測不可能な時代とも呼ばれる現代において、不変の方程式は存在しない。
多様なアイデア、オプション、アプローチをそれぞれ比較し、トライアンドエラーを繰り返しながら、より現状に即した選択肢を発見したものが、勝利に近づく。
岸本は最高の判断のために、その時点での「自分たちのバスケット」にはない別の可能性を、試合開始と同時に探し始める。
コートの中ではなく、外から。
「最初にサンプルじゃないですけど、そういうものを見てから自分のアプローチを考えられるので、すごくやりやすいですね。スタートだとプレーしながら、走りながらいろいろ考えなきゃいけないってなるとやっぱりタフさが求められる。観てる人は感じにくい部分だと思うんですけど、プレーしながら違うことを考えて、違うアプローチを考えてって、正直しんどいじゃないですか。でも椅子に座って試合を見ながらだと色々見えてきて、自分の頭の中も整理できて試合に入っていけるので、ベンチから出るほうが今はやりやすいかなと思います。」
シックスマンとして、岸本が施す軌道修正は今や欠かせないものになったが、それ以前はチームの核として、スタートでプレーしていた。
バスケット選手であれば試合開始からコートに立ち、より長いプレータイムを求めるのが一般的だが、量的なこだわりはないのだろうか。