藤岡麻菜美2.0
2019-20シーズンを終えて引退した藤岡麻菜美。
選手生活を離れ、コーチとしてバスケットに再び携わるようになって、彼女の中にある信念めいたものが芽生えたようだった。
取材前、例によって藤岡に関する情報をグーグル先生へお尋ねしていたところ、気になる彼女のインタビューをいくつか見かけた。
そこでは自身のコーチングについて語られており、選手の主体性や自主性を尊重するようになった、という主旨の発言がされていた。
また、自身のそういった変化を受けて、選手として復帰する際にも「主体性を持ってプレーしたい」との言葉を残していた。
僕はこの記事を読んで、引退が彼女の視野を広げたこと、当時の彼女にとって必要な決断であったことは間違いないと納得した上で、同時に浮かんでくる疑問もあった。
これまで彼女がいた環境には、それらが欠如していたのだろうか。
「高校の話になるんですけど、結構まだ千葉県でも怒鳴る先生がすごく多いなという印象です。子供たちが、萎縮してやらされてる雰囲気がすごくあると感じています。今、自分が教えている(千葉英和)高校では、監督さん(森村義和コーチ)も82歳で経歴のある名将の方なのですが、『のびのびプレーをやらせてあげたい』という考え方なので、そこが大事なのかなと。結局、好きでバスケットを始めてるのに、やらされてたらもったいないし、萎縮してミスすることを恐れ、挑戦しなくなるのは一番もったいないな、可能性を下げてしまうなと思っています。本当に自分の教える高校ではそういうのを一切させたくないと思ってはいるんですけど、やっぱりまだミスするのが怖いとか、そういう声も聞くので、そこにどれだけ挑戦していけるか。そういう環境をもっと作って行かなければいけないと感じています。」
女子バスケットボール界における選手の主体性や自主性の現状を、藤岡自身はどう認識しているか、という僕の質問に、藤岡はこう答えてくれた。
そしてこの実感は、選手としてのキャリアしか持たなかったころには得難かったともいう。
「それこそ日本のトップの環境でもそうだったのだから『それも大事なのかな』って思っていたのですが、コーチの現場に立ったときに、『やっぱり自分は(怒鳴るのは)ちょっと違うかな』というのは感じました。」
藤岡の経歴は今更僕が語るまでもなく、その輝かしさが色褪せることはない。
日本の、そしてアジアのトップに上り詰めた経験があってなお、現在の一般的な指導法には疑問を持っているようだった。
だがこれは、女子に限った話ではないと僕は思う。
怒鳴ったりするのは典型的でわかりやすいが、そうではないケース、一見してわかりにくいものもあり、確実に選手の主体性を損なうようなコーチングは、男女を問わずそこらじゅうに蔓延っている。
そういった「罰と恐怖のマネジメント」がどれだけ人間の可能性を奪っているかについて、僕の選手生活の晩年は観察し続ける日々だった。
もしかしたら、「一貫した厳しい指導が実を結んで、日本の女子は銀メダルを取ったのだ」と主張する向きもあるかもしれない。
それも一理あるとは思う。
世界中が同じ手法を取り入れていれば、より徹底できたチームが成果を出しやすくはなるだろう。