兄貴の話を書こう。そう思って、インターネットで「兄貴といえば」と入力してみたら、トップにgooランキングが出てきた。2016年のものだから、ちょっと古い。1位の方は表に出しづらい。元アイドルとだけ書いておこう。2位が哀川翔さんで、3位が金本知憲さん。なるほど、兄貴である。
バスケット界の兄貴と言えば誰だろう? 読者のみなさんからも何人かの名前が挙がりそうだが、シーホース三河の柏木真介もそのうちの一人だろう。1981年生まれだから、今年の12月で40歳になる。年齢的には問題ない。
プレースタイルはどうか? 身長こそ183センチと飛び抜けて大きくはないが、とにかくフィジカルが強い。クイックネスもあるのだが、同世代のガード陣、 “巧さ” の田臥勇太(宇都宮ブレックス)や “速さ” の五十嵐圭(新潟アルビレックスBB)とは異なる “頑丈さ” が最大のセールスポイント。今なお衰えない “頑丈さ” は観ている側も熱くなれる。
しかしそれだけでは兄貴たりえない。弟分、つまりは後輩たちから慕われてこそ、兄貴は兄貴たりうる。7日の川崎ブレイブサンダース戦でこんなシーンがあった。ベンチスタートの柏木は、第3Qの終盤に再投入され、第4Qもスタートからコートへ。その直前、柏木はベンチ前で根來新之助、熊谷航と何やら話し込んでいた。14点ビハインドでのスタート。ベテランともなれば、あるいは自らの経験を生かして、反撃を組み立てられなくもない。しかしよりよい選択肢を求めて、柏木は後輩たちの意見に耳を傾けていた。後輩たちもまた、聞く耳のある先輩だからこそ、話の輪に入るのだろう。
兄貴である。
結果的にそのゲームは勝てなかった。しかしファイナルスコアは93-96。オフェンシブなチームとはいえ、最終Qだけで35得点をあげられたのは、柏木の存在も大きかったはずだ。得点ではない。得点だけで言えば、その10分間、彼は無得点である。アシストもわずか2。それでも彼の存在が大きかったのは、彼がチームに流れをもたらしたことにある。
チームの得点源のひとりである金丸晃輔は「柏木さんが落ち着かせたところはある。カイルは突っ込んでターンオーバーが多かった。柏木さんはうまくコントロールして、ゆっくり時間を使って、パスを回して、攻めていくパターンに切り替えていた」と振り返る。2006年の世界選手権(現・ワールドカップ)でともに日本代表として戦った川村卓也も「彼にはゲームを落ち着かせる力がある。チームがダメなときにコーチが送り出して、ゲームがキュッと絞まるのは彼の持っている支配力やバランスの取り方によるもので、それはボクが一緒にやってきた選手なかでも群を抜いている」と絶賛している。
最近は篠山竜青(川崎)や富樫勇樹(千葉ジェッツ)、安藤誓哉(アルバルク東京)、果ては河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)といった絶頂期、もしくは未来志向のポイントガードばかりに注目が集まる。しかし円熟味を増すポイントガードもまたおもしろい。数字で見えるものがすべてじゃないんだよ。 “兄貴” のプレーがそう教えてくれた気がする。
ちなみにgooランキングの8位は「霊長類最強女子」で、9位は芸能界の「ゴッド姉ちゃん」がランキングしていた。 “兄貴” の世界は奥が深い。
文 三上太
写真 B.LEAGUE